反移民の時代にアートを通じて「移民」の意味を考える意義
オランダ・ロッテルダムの新美術館フェニックスを訪ねて

  • 2025/8/29

シンボリックな都市の歴史
 フェニックスは今後、イベントの開催などを通じてコミュニティを呼び込む場となることを目指している。オランダで100年近くジェラート屋を経営しているイタリア出身の一家が作るジェラート屋や、トルコ系のシェフによるトルコベーカリーなども併設されており、その空間自体が移民の歴史をシンボリックに伝える場となっている。
 さらに、建物の上には、光沢のある鋼鉄でつくられた二重螺旋の渦巻きのようなトンネル「トルネード」が設置されている。内部の階段を上がって最上部の展望ペースに出ると、かつてホランド・アメリカ・ラインの本社が置かれていたホテル・ニューヨークとマース川を見下ろすことができ、歴史について考える瞬間を与えてくれる。トンネルが巻きついたようなこのデザインは、移住とは直線的ではなく旅のようなものであるということを示しているのだという。

フェニックスの建物の上に作られた二重のトンネル「トルネード」。内部の階段で最上部に上がると展望スペースがあり、マース川を見下ろせる。中国の建築事務所MADアーキテクトによる設計だという © Iwan Baan

 ヨーロッパの都市は、歴史を非常に大切にしている。現在がその延長線上にあり、過去の出来事の蓄積こそが個性を作ってきたということが認識されているからだろう。歴史を深掘りし、そのシンボルを残して伝えていくことで、その街の個性を守ることができる。
 一方、日本では、街づくりにおいて、歴史がそれほど重視されないように思う。歴史的な建造物や町並みが残っている地域もあるが、それほど多いわけではない。 ストーリーのある古いシンボリックなものを残すよりも、新しいものを作ることに今でも重きが置かれがちだ。天災が多いうえ、戦争中に空襲も受けた日本では、木造の古い建造物を残しにくかったということもあるだろうが、その地域の歴史を振り返り、街づくりにつなげるという視点がそれほど強くなかったのだろう。歴史が見えにくい多くの地域では、個がバラバラに動いて独自性が失われてしまったり、その街の成り立ちについて考える機会が少なくなってしまったりしているようにも思われる。
 その街の過去から考え、シンボリックで意義ある公共の空間を街に作るというヨーロッパの都市の姿勢からは、学ぶところが多い。同時に、在住外国人数が急増している日本でも、自分たちとは異なる移民について、その人間性を知り、考えさせるような場をつくることがもっと必要になっているように思えてならない。

 

 

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