月刊ドットワールドTV #26振り返り アフガン女性たちの抵抗と日常を記録する
2人の女性監督が描いた、抑圧のなかで生きる人々の姿

  • 2026/10/26

 2021年8月にイスラム主義勢力タリバンがアフガニスタンで復権してから5年が経ちました。世界各地で紛争や混乱が相次ぐなか、アフガニスタンの現状が大きく報じられる機会は減っていますが、現地では今も女性や少女たちの教育や社会参加が厳しく制限されています。

 そんな厳しい状況のなか、2人のアフガニスタン女性監督がカメラを回し続けたドキュメンタリー映画が、今夏、日本全国で順次公開されました。「月刊ドットワールドTV #26」(2026年10月25日18時~)では、監督たちへの取材を基に記事「アフガニスタンの女性監督2人が記録する抵抗と日常」(2026年10月8日付)を執筆したライターの本山光さんをゲストに迎え、抑圧される人々の声を記録し、伝えることの意味について伺いました。

『ハワの手習い』のワンシーンより ⒸTAG Film

抑圧のなかで見えてくる、女性たちの意思と社会の姿

 作品はどちらもアフガニスタンの女性たちを描いているが、その視点や表現は大きく異なります。

『ハワの手習い』は、読み書きを学び始めた女性ハワの日常を、娘である監督がカメラに収めた作品です。幼くして結婚し、十分な教育を受けられなかったハワは、自分の娘に教育の機会を与えた後、自らも学び、刺繍などの手仕事を生かして新たな一歩を踏み出そうとします。

 母と娘の何気ない会話や、学ぶ喜びが伝わる穏やかな場面。しかし、タリバンの勢力が拡大するにつれ、家族の暮らしにも不安が忍び寄ります。本山さんは、ニュース映像や銃声によってではなく、「生活の足元から危機が迫ってくる」ように感じられるところが、この映画の恐ろしさだと表現しました。

 映画に登場する3世代の女性――教育の機会を奪われた母、自らの道を切り開いた娘、そして再び教育を制限されかねない孫娘――の姿を通じて、いったん前進したはずの社会が逆戻りしていく現実が浮かび上がる作品です。

女性の権利を訴えるラシュミンの妹のナスタラン ⒸLumier Film

 一方、『撃たれた自由の声を聴け』は、タリバン復権後、女性の権利を求めて街頭で抗議活動を続けるラシュミンと妹たちを追った作品です。身の危険を感じながら住まいを転々とし、それでも教育を受ける権利などを訴え続ける女性たちの姿が映し出されます。

 なかでも本山さんは、ラシュミンたちにタクシーの運転手が抗議をやめるよう諭す場面が特に印象に残ったと振り返ります。また番組では、声をあげる女性たちと、その周囲で暮らす人々との温度差にも話が及びました。決死のデモを行う彼女たちに冷ややかなまなざしをそそぎ、淡々と普通の生活を営む市民の姿からは、同じ社会に生きていても危機の受け止め方が一様ではない複雑な現実が伝わってきます。

被害者としてだけではない、女性たちの姿

 本山さんは、2025年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で2作品に出会い、会場で監督たちの強いメッセージに胸打たれて、後日メールで取材したといいます。

 『ハワの手習い』のナジーバ・ヌーリ監督が強調したのは、アフガニスタンの女性たちを、単に抑圧される被害者として捉えるべきではないということでした。本山さんは、「ハワが属する少数民族ハザーラ人にとって、言語や教育を大切にし、刺繍などの伝統文化を守り続けることは、生計を立てる手段であると同時に、自分たちのアイデンティティを守り、迫害に抵抗する行為」という監督の言葉を紹介。そのうえで、「母の世代の女性たちはさまざまな困難に直面しながらも、夢や志を手放さなかった」という言葉も印象に残ったと振り返りました。

 一方、『撃たれた自由の声を聴け』のザイナブ・エンテザール監督に対し、本山さんは「女性の権利が制限されるなか、男性たちは以前と変わらない生活を送っているのか」と問いかけたといいます。本山さんは、「表面的には仕事や移動などの自由を保っているように見えても、男性たちも社会全体を覆う恐怖や経済の悪化に苦しみ、妻や娘、姉妹たちの権利が奪われる現実に無力感を抱いている」という監督の答えを紹介。女性たちへの抑圧は女性だけの問題ではなく、社会の半分を占める人々が声を奪われることは社会全体に影響を及ぼす、という監督のメッセージを伝えました。

消されてしまう声を、記録に残す

 番組の後半では、2人の監督が危険を冒してまでカメラを回し、作品を世界に届けようとする意味について語り合いました。

 エンテザール監督は本山さんの取材に対し、「アフガニスタンで歴史上の重要な出来事や悲劇が隠されたり、書き換えられたりしてきた現実に気づいたことが、映像制作の道を選ぶ理由の一つになった」「真実を記録し、しばしば消し去られようとする人々の物語を残さなければならない」と語ったといいます。

 本山さんも、安定していると思っていた日常が突然変わる可能性は誰にでもあり、声を上げなければ記録に残らず、やがて語られなくなってしまうと指摘。カメラや文章など、さまざまな手段で発信し続けることの大切さを強調しました。

 また、番組では、本山さんが編集・執筆に携わった『地図でスッと頭に入る』シリーズのアフガニスタンを紹介するページも披露。「平和ってなんだっけ?」という問いとともに、戦争や政治だけでなく、人々の暮らしや文化にも目を向けてほしいという思いを紹介しました。

 最後に、スタジオから構さんが「アフガニスタンの女性たちや抗議活動をひとくくりにするのではなく、声を上げる人、見守る人、通り過ぎる人など、一人ひとりの姿を丁寧に見つめ、見誤らないことが大切」だと指摘しました。

 番組では、私たちが何を見つめ、何を記録し、伝えていくのかについて、より詳しくお話を伺っています。ぜひアーカイブでご覧ください。

世界を知る、今月の新着記事

 番組ではこの1カ月間に公開したその他の新着記事も振り返りました。

 各国の現地紙の社説を紹介する「報道を読む」では、AIが目覚ましい進化を遂げるなか、技術革新と人々の安全をどう両立させるのか問うインドネシアとインドの社説をはじめ、末端の実行犯を摘発するだけでは問題は解決しないオンライン詐欺対策について問題提起するカンボジアとバングラデシュの社説を取り上げた記事など5本を紹介しました。

報道を読む | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト

 「社会を読み解く」では、ミャンマー音楽研究者の村上巨樹さんが、今年6月のヤンゴン訪問をもとに、軍主導の総選挙を経たミャンマー社会の今を文化と暮らしの両面から見つめた記事や、AI開発をめぐるアメリカと中国の覇権争いとリスク管理協力のジレンマについて読み解いた福島香織さんの論考を紹介しました。

社会を読み解く | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト

 また、「世界写真館」では、独裁を強める政府に抗議して命を落とした息子を思い、声を上げる母親の姿を伝えるフォトジャーナリスト、柴田大輔さんの一枚を紹介しました。

世界写真館 | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト

 さらに、8月26日にネパールと中国の国境で土石流災害が発生したことを受け、ヒマラヤの麓に「プチ移住」した経験がある写真家の川口敏彦さんを招き、氷河とともに暮らすシェルパの人々の姿や、ヒマラヤと富士山麓をつなぐ交流活動などについて伺った「月刊ドットワールドTV #25」の振り返り記事も紹介しました。

月刊ドットワールドTV | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト

 ドットワールドは、これからも記事や写真、そして「月刊ドットワールドTV」を通じて、現地の人々から見た世界の姿やさまざまな価値観、喜怒哀楽を伝え、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を実現する一助となることを目指します。

 引き続き、ご支援のほど宜しくお願いいたします。

 

 

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