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月刊ドットワールドTV #25振り返り 溶けゆくヒマラヤの氷河を見つめて
「手の届く冒険」の先に広がる、人々とのつながり
- 2026/9/26
ネパールと中国の国境沿いで8月26日、大規模な鉄砲水と土石流が発生しました。原因の一つとして指摘されているのが、ヒマラヤの氷河の崩壊です。
「月刊ドットワールドTV #25」(2026年9月24日20時~)では、ドットワールドの「世界写真館」で紹介した「溶けゆくヒマラヤの氷河と、そこで生きるシェルパの人々」(2026年9月10日付)の執筆者、写真家の川口敏彦さんをスタジオに迎えました。
新聞社の写真部で約30年間、報道写真に携わった後、ミャンマーに1年半滞在し、さらにエベレスト山麓の標高約3800メートルの村で半年にわたりシェルパの人々と暮らした川口さん。番組では、なぜ川口さんがヒマラヤで「暮らす」ことを選んだのか、そこでどんな人々の営みに出会ったのか伺ったうえで、今回の災害と40年近く前から指摘されてきた氷河をめぐる危機、さらに写真をきっかけに広がった日本とネパールの交流について語り合いました。
「撮りに行く」のではなく、暮らしてみる
川口さんが2018年から翌年にかけて半年間暮らしたのは、エベレスト山麓、標高約3800メートルの村でした。
初めてこの地を訪れたのは約35年前。新聞社の報道カメラマンとして取材に訪れ、シェルパの家に10日ほどホームステイした際、「もっとここにいたい」と思ったといいます。その後、新聞社を早期退職し、長年の願いだったヒマラヤでの生活を実現しました。
川口さん自身は、一定期間その土地に身を置くことを「プチ移住」と呼んでいます。借りたのは、シェルパの空き家。水道はなく、洗濯には村の共同水場を利用しました。家事が終わると、ヒマラヤの山々を眺めながらお茶を飲み、時には「一日ずっと山を見て終わってしまう」こともあったといいます。短い取材ではなく、生活者としてそこにいるからこその時間の流れがありました。
そんな川口さんの写真に写っているのは、雄大な山々だけではありません。水を汲みに行く子どもや畑仕事をする人々、宗教行事など、厳しい自然の中で営まれるシェルパの人々の日常も、半年間同じ村で暮らしたからこそ自然な姿で切り取られています。
川口さんは、こうした自らの旅を「手の届く冒険」と表現します。エベレストの山頂を目指すことは難しくても、麓に半年間暮らすことならできるかもしれない。特別な人にしかできない大冒険ではなく、自分の手が届くところまで一歩踏み出してみる。その先に、これまで知らなかった世界との出会いがあると考えているのです。
40年前から続いていた、氷河災害の危機
そんな川口さんが今回の災害についてまず指摘したのは、氷河に起因する洪水は決して初めてではないということでした。
川口さんが氷河湖決壊洪水について知ったのは、1990年のこと。その後、現地を歩いて取材すると、エベレスト山系では1985年にも氷河湖の決壊による洪水が発生し、土石流によって水力発電用のダムが破壊されていたことが分かったといいます。
「ヒマラヤで進む変化の危険性は、少なくとも40年ほど前から一部の研究者には認識されていた」と振り返る川口さんは、「当時から危機がもっと広く共有され、世界の指導者たちにも伝わっていれば、今の状況とは多少変わっていたのではないか」と指摘。今回の災害を「非常に残念」と振り返りました。
一方、当時と現在では、災害を「伝える」環境も大きく変わりました。
1980~90年代には、氷河の融解を地球温暖化と直ちに結び付けることには研究者も慎重で、現地の映像もほとんどありませんでした。その意味で、今回、現地の人々によって数多くの映像が撮影されたことは、被害の凄まじさを伝え、この災害を後世に残すうえでも大きな意味があると川口さんは語りました。
番組では、気候変動による災害の被害を受ける国々と、その原因を生み出してきた側との関係にも話が及びました。被災地の人々が気候変動を引き起こすような暮らしをしてきたとは限らないにもかかわらず、甚大な被害を受け、復旧の費用まで負担しなければならないのか。今回の災害は、気候変動の責任を誰がどのように引き受けるのかという、より大きな問いも私たちに突きつけていると言えるでしょう。
写真を「道具」に、人と人をつなぐ
帰国後、川口さんはヒマラヤで撮影した写真を富士山麓で展示する活動を始めました。やがてそれは富士山とエベレストという二つの山を結ぶ国際交流へと発展。10月からは、かつて暮らしたクムジュン村にある学校と静岡県沼津市の小中一貫校をオンラインでつなぐ交流事業が始まります。日本とは異なる環境で暮らす子どもたちが直接話すことで、互いの世界を知るきっかけになればと川口さんは期待します。
さらに、現在暮らしている西伊豆でも、地域に残るミャンマーのパゴダ(寺院)をミニ資料館として再生したり、空き家をギャラリーにしてミャンマーの写真を展示したり、キッチンカーでネパール料理をはじめアジア各地の料理を提供し、「視覚と味覚」でアジアを知ってもらう機会をつくったりしている川口さんにとって、「写真は、それ自体が目的ではなく、何かを始めるための道具」だといいます。
世界各地を歩いた末に西伊豆で暮らし、「海外にも、西伊豆にも、人がいて、それぞれの場所で地道な暮らしを営んでいる」「自分が住んでいるところも楽園なんじゃないか」と思うようになったという川口さん。
遠くの土地で何が起きているのか、自分の目で見てみる。そこに暮らす人と出会い、知ろうとする。そして、その出会いを次のつながりへと広げていく――。川口さんのいう「手の届く冒険」は、世界を遠いままにしないための一つの方法なのかもしれません。
番組では、川口さんの写真や人々との交流について、より詳しくお話を伺っています。ぜひアーカイブでご覧ください。
溶けゆくヒマラヤの氷河 ――『手の届く冒険』の先に ヒマラヤと人を見つめて 『月刊ドットワールドTV』
世界を知る、今月の新着記事
番組ではこの1カ月間に公開したその他の新着記事も振り返りました。
各国の現地紙の社説を紹介する「報道を読む」では、温暖化への責任が小さい国が気候災害によって甚大な被害を受けた時に、その復興費用を誰が負担すべきか問題提起したネパール紙やパキスタン紙の社説をはじめ、長期化するガザやウクライナでの戦争について、「戦争とは老人が語り、若者が死ぬ」と批判するインド紙やパキスタン紙の社説を取り上げた記事など、7本を紹介しました。
報道を読む | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト
また、「社会を読み解く」では、今回の土石流災害を手掛かりに、ヒマラヤで進む巨大インフラ開発とそのリスク、そしてチベットをめぐる中国の地政学的戦略を読み解いた福島香織さんの論考のほか、アメリカが対外援助を大幅に削減した影響を受けるアフリカの人々がこの影響をどう受け止めているのか、各種世論調査から読み解いた岩田太郎さんの記事を紹介しました。
社会を読み解く | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト
「世界写真館」では、今回のゲスト、川口敏彦さんのフォトギャラリーのほか、一年前に戦闘による損壊が伝えられたミャンマー北部の鉄道橋、ゴッティ橋のありし日の姿をとらえた小池隆さんの一枚を紹介しました。
世界写真館 | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト
さらに、8月20日に小説『「0825」に私たちは殺され続ける あるロヒンギャ夫婦の物語』を出版したライターの今泉千尋さんをゲストに迎えた「月刊ドットワールドTV #24」の振り返り記事も紹介しました。
月刊ドットワールドTV | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト
ドットワールドは、これからも記事や写真、そして「月刊ドットワールドTV」を通じて、現地の人々から見た世界の姿やさまざまな価値観、喜怒哀楽を伝え、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を実現する一助となることを目指します。
引き続き、ご支援のほど宜しくお願いいたします。




















