分断するアメリカで生まれた超党派協力
外来魚対策で手を組むトランプ大統領と民主党知事

  • 2026/11/3

 政治的な分断が深まるアメリカで、意外な超党派協力が生まれています。かつて新型コロナウイルス対策をめぐって激しく対立したトランプ大統領と、民主党のホイットマー・ミシガン州知事が、五大湖への外来魚の侵入を防ぐために協力を重ねているというのです。両者を動かしたのは、地域の暮らしや産業を守ろうとする住民たちの声でした。対立する政治家を協力へと向かわせた背景について、アメリカ在住のジャーナリスト、岩田太郎さんが読み解きます。

 

 社会の分断が深まる一方のアメリカ。11月3日の中間選挙に向けて、同じアメリカ人がまるで敵同士のように対立する場面が増えている。

 しかし、一見矛盾しているようだが、2025年1月に第2次トランプ政権が発足して以来、目立たない形で民主・共和両党が協力し、ローカルレベルで結果を出した例があり、有権者から歓迎されている。

 これほど政治的な分断が強調されるアメリカで、地域の具体的な課題を前にすると、なぜ党派を超えた協力が生まれる場合があるのだろうか。その背景にある住民・有権者の意識から読み解く。

破天荒で行動予測が難しいトランプ大統領は、対立政党の政治家にとり、共に働くのが難しい権力者だ (c) Molly Riley / The White House / The White House

コロナ対策で始まった両者の対立

 2018年、中西部ミシガン州の知事選で当選した民主党のグレッチェン・ホイットマー氏は当初、共和党のトランプ大統領と意見が食い違うことはあっても、表立った対立を避けていた。

 ところが、2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ホイットマー知事が厳しい外出制限や対人接触の制限を実施すると、トランプ大統領は「ミシガンを解放せよ」と制限の緩和を要求。2人は感染対策をめぐって激しく対立した。

第1次トランプ政権末期とバイデン前政権下で、トランプ大統領と鋭く対立した中西部ミシガン州のホイットマー知事。2025年に第2次トランプ政権が発足すると、トランプ氏との会談を行い、できる限り協力する路線へと転じた。 (c) City of Detroit / wikimediacommons

 同年10月には、ホイットマー知事の誘拐を企てたとされる集団による事件が発覚した。知事は、トランプ大統領の批判的な発言が犯行をあおったとして、同氏を非難。両者の関係は悪化したまま、トランプ氏は2021年1月に大統領の任期を終えた。

 しかし、こうした因縁のある2人が、第2次トランプ政権の発足後、ある問題をめぐって協力することになる。その問題とは、世界最大の淡水水系であるミシガン湖を含む五大湖への外来魚の侵入だ。生態系や地域経済への深刻な影響が懸念されるなか、住民たちは対策を求め続けていた。

五大湖に迫る外来魚という「共通の敵」

 中国原産のコイ科の大型淡水魚、ハクレン(白鰱)。中国では「四大家魚」と呼ばれる主要な養殖魚の一つで、煮物や蒸し物、揚げ物などにして広く食べられている。

 英語では、「シルバーカープ」と呼ばれ、1970年代に水質浄化などを目的としてアメリカ南部に導入された。ところが、洪水などによって本来の放流地域から流出し、大陸を南北に流れるミシシッピ川水系に侵入。北上しながら繁殖を続け、中西部の河川でも爆発的に増殖していった。

ハクレンが問題視されるのは、大量に繁殖し、在来魚と餌となるプランクトンを奪い合うことで、生態系に悪影響を及ぼすおそれがあるためだ。

 さらに、ボートのエンジン音や振動に驚くと、水面から勢いよく2〜3メートルほど跳び上がる習性がある。体重30〜45kgほどの成魚が走行中のボートに弾丸のように飛び込み、乗っている人が骨折や脳震盪といったケガを負う事故も多発しているため、釣りやレジャーを楽しむ人々にとっても脅威となっている。

五大湖につながるミシシッピ川水系に侵入した、淡水魚のハクレン(白鰱)は、大量に繁殖して餌を奪い合うほか、水面から飛びあがってボートの乗客にケガを負わせることもある (c) USGS /Columbia Environmental Research Center / wikimediacommons

 住民たちは早くから行政に対策を求めてきた。2009年には、ミシガン州議会に外来魚対策を求める請願書が提出された。当時の署名は119人にとどまったが、その後、行政の介入を求める機運が徐々に高まっていった。

 2015年にミシガン州の有権者を対象に実施された世論調査では、回答者の77%が外来魚の州内水系への侵入を防ぐべきだと答え、73%がハクレン対策を求めた。2017年には、住民公聴会で、州政府に緊急の対応を求める決議案が採択された。

 こうした動きを受けて、アメリカ陸軍工兵司令部は2017年、イリノイ州との州境に位置するミシシッピ川水系とミシガン湖を結ぶ水路で、外来魚の侵入を防ぐ施設の整備に向けた予備調査を開始した。

 ホイットマー知事が当選したのは、まさにこうしたタイミングであり、ハクレン対策は就任当初から住民の期待を背負う重要な政策課題であった。

 2019年1月の就任後、知事はトランプ政権に対し、侵入防止施設の整備への協力を要請した。州をまたぐ大規模事業であり、10億ドル(約1600億円)規模の大規模予算が必要となるため、連邦政府の支援が不可欠だった。

 第1次トランプ政権もこれに応えてプロジェクトを承認し、議会による予算措置が進められた。つまり、新型コロナウイルス対策を巡ってトランプ大統領とホイットマー知事が激しく対立していた時期にも、両者は「住民第一」で結束し、緊急課題である外来魚対策では協力が進められていたのである。

対立を棚上げし、協力を選んだ民主党知事

 2021年1月に発足したバイデン政権の下では、シカゴ近郊の水路に、電気や水中音響、気泡などを利用して外来魚の侵入を防ぐ施設を整備する計画が決定された。「ブランドン・ロード計画」と呼ばれるこの事業では、魚を水路から排除する仕組みも組み合わせ、五大湖への侵入を食い止めることを目指している。

ミシガン湖からミシシッピ川へ注ぐ接続部に設置された「ブランドン・ロード(Brandon Road)計画」と呼ばれる一連のハクレン侵入バリア。今後、さらに拡大される(c) The U.S. Army Corps of Engineers

 その後、関連する立法や予算措置も進んだが、2025年1月に第2次トランプ政権が発足すると、工事の進行に遅れが生じた。新型コロナウイルス対策をめぐるホイットマー知事との対立が影響した可能性もあるが、理由は明らかではない。

 ここで、ホイットマー知事は、厳しい選択を迫られた。トランプ大統領との対決姿勢を貫くのか。それとも、州民の生活や産業を守るため、かつての政敵と協力するのか。

 2027年1月の任期満了まで2年しか残されていなかった知事は、対立を棚上げし、協力という現実的な道を選択した。あえてトランプ批判を控えて意思疎通を図り、一部の民主党員から批判を受けながらも、プロジェクトを進捗させることを優先した。こうして、2025年春に工事は本格的に進み始めた。

 ところが、一難去ってまた一難。トランプ政権は2025年春と秋、さらに2026年夏の3回にわたって工事を一時中断させたという。そのたびに、ホイットマー知事は大統領と直接会談したり、電話をかけたりして、工事の再開に向けて交渉を重ねた。政治的な対立を続けるよりも、住民の切実な要望に応えることを優先したのである。

住民の声が政治を動かす

 ブランドン・ロード計画は、完成まで長い年月を要する大規模事業だ。計画では、一部の施設が機能し始めるのは2028年夏、第1期工事の完工は2029年1月、魚を排除する仕組みの運用開始は2031年秋、全体の完成は2032年とされている。

大量に繁殖してしまった暴れ魚のハクレンを五大湖の手前で食い止めるのは至難の作業だ (c) Ryan Hagerty/USFWS

 ミシガン湖から約130kmの目前にまで迫ったハクレンの侵入リスクは、その間にも続き、予断を許さない。万が一、五大湖に定着すれば、70億ドル(約1兆円)規模の漁業への損害や、数百億ドル規模の観光・ボート産業への打撃が懸念される。

 こうしたなか、ホイットマー知事にとって、トランプ大統領がどれほど難しい交渉相手であっても、州民の期待に応えるためには協力を模索しなければならなかった。つまり、政治家同士の個人的な党派対立を、住民の声が緩和する役割を果たしたと言えよう。

 実際、地元放送局WTTWは、2026年9月に3度目の工事停止が解除された背景には、ホイットマー知事からトランプ大統領への電話があり、その行動を後押ししたのは、工事の再開を望む地元の声だったと伝えている。

 共和党の大統領も、民主党の州知事も、有権者の支持を得て選挙で選ばれた政治家である。政治的な立場が違っても、政治家は公約を守り、地域の課題を解決し、住民の期待に応える責任がある。

 今回の事例は、政治家同士の対立が深まるなかでも、有権者が具体的な要求を粘り強く伝えることで、党派を超えた協力を促し得ることを示している。もちろん、一つの地域課題をめぐる協力が、アメリカ社会の深い分断を解消するわけではない。それでも、政治的な立場の違いを超えて共有できる課題があり、住民の声が政治家を動かす余地も残されている。分断が深まるアメリカにあって、そこに一つの希望を見いだすことができるのではないだろうか。

 

 

執筆者プロフィール

(いわた・たろう)在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済や政治を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『JBpress』や『ビジネス+IT』など、多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿。好きな動物はうさぎ、趣味はドライブ、好物は寿司と辛口の清酒。『リテラ』でも『産経新聞』でも好き嫌いせずに読む。

 

 

 

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