パキスタンのコロナ禍「助けを求める叫びを聞け」
「世界でも慈愛の深い国」の地元紙が貧困層の苦しみを訴え

  • 2021/6/20

 国民の2割以上が貧困層とされるパキスタン。新型コロナの感染拡大は貧しい人々の家庭を直撃した。6月1日付のパキスタンの英字紙ドーンでは、社説でこの問題を採り上げた。

(c) AaDil / Pexels

わが子を殺害する悲劇

 貧困が命を奪う。それも親が子どもに手をかける。そんな衝撃的な事件がパキスタンで起きているという。「極端に貧しいが故にわが子を殺害するというショッキングな事実が、行政当局を昏迷に陥れた。先週、ムルタン警察は、毒物を飲んで死んだ子どもたちの母親の身柄を確保した。母親はのちに、夫である子どもたちの父親とともに3人の子どもたちに毒を飲ませたと告白した。理由は、貧しさだった。父親はその後、自殺した」
 社説によれば、貧しさ故に死を選ぶ事件はこれだけではない。昨年1月にはカラチで、4人の子どもの父親が自らに火をつけて自殺した。失業が理由だったという。その1カ月後には、別の場所で、借金を苦に自殺をした男性もいた。
 社説は、「そういう人たちが頼ることができる場所がほとんどないことは、恥ずべきことだ。このような不幸や絶望が存在しているというのに」と、彼らを救うことができなかったパキスタン社会に疑問を投げかける。

増える貧困層

 アジア開発銀行(ADB)は、パキスタンの2020年度の実質GDP成長率をマイナス0.4%と発表した。経済成長率がマイナスに落ち込むのは、68年ぶりのことだという。主な原因として、新型コロナ対策のために経済活動が厳しく制限されたことが挙げられる。パキスタンの新型コロナの感染状況は、6月上旬現在、1日あたりの新規感染者が1000人を超えているものの、ピーク時よりは抑制されており、減少傾向にあるとみられている。とはいえ、同国の貧困層が社会的弱者にもたらす影響は根深く、社説によれば、今後も増えていく可能性があるという。
 社説は、「国際通貨基金(IMF)などによれば、パキスタンの貧困層は今後、ますます増えていくと予測されている。ある計算によれば、わが国では貧困層と言われる人々がいずれ8500万人にまで増える。過去2年の間に食品の価格は約3割上がる一方、新型コロナのために失業者は増え、数千世帯が食料不足に陥っている。小麦、小麦粉、砂糖、豆類、油、果物など、主要食品の価格は上昇した」と、指摘した上で、「政府は福祉国家を掲げていながら、実際にはあまり多くのことができていない」と、厳しく批判する。
 「政府は、貧困削減に向けてさまざまな努力をしながらも、なぜ助けを必要とする人々を救うことができないのか、真摯に反省すべきだ。パキスタンが、世界でも慈愛の深い国だと言われていることは皮肉だ。政府は多面的なアプローチによって貧困削減に集中すべきだ」
 世界の貧困問題は、新型コロナの感染拡大によってさらに深刻化した。経済が回復に向かっても、経済基盤がぜい弱でセーフティーネットが未整備な状態では貧しい人々の苦しみは続くだろう。私たちは、より一層、社会の最も弱い部分に関心を持ち続ける必要がある。

 

(原文:https://www.dawn.com/news/1626863/cry-for-help)

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