新型コロナ患者の受け入れ、利益より救命を
感染者を見捨てる病院にタイの英字紙が苛立ち

  • 2021/5/18

 タイでは今、新型コロナ患者の受け入れにあたり、高額な金額を請求する病院が問題になっている。4月29日付のタイの英字紙バンコクポストは、社説でこの問題を採り上げた。

(c) Karolina Grabowska / Pexels

高額な預入金

 社説によると、新型コロナウイルスに感染した人が入院するにあたり、私立病院の中には最低20万バーツ(約70万円)という法外な預入金を要求するところがあるという。その患者が高齢者だったり緊急治療室の使用が必要だったりした場合は、50万バーツ(約175万円)にまで跳ね上がることもある上、感染者に対して説明もなく扉を閉ざした病院もあったという。社説は「ソーシャルメディアには、病院に見捨てられた感染者の話があふれている」と、指摘する。
 タイでは、治療が必要な患者を拒んだ医療施設に対しては、禁錮刑や罰金刑が課されているという。加えて2017年に施行された法律では、緊急の患者については国が援助し、どの病院でも治療を受けることができると定めている。同法によれば、特に新型コロナウイルスに感染した患者は、公立でも私立でも無料で病院治療を受けられる。
 また、タイ政府は4月9日にガイドラインを発表し、医療施設やクリニック、病院に対し、もし入院施設がなければ患者のために適切な場所を確保するよう定めている。それでも、実際には、少なくても12カ所の医療施設がこれを遵守せず、処分を受けているという。

すべての医療機関が協力を

 社説によれば、政府は私立病院との間で「新型コロナ患者の病床を確保する場合は、国がその費用を支払う」との合意書を交わし、急ピッチで仮設病院を建設して病床の確保に取り組んでいる。それでも、中には新型コロナ患者の受け入れに非協力的な医療施設もあることに対し、社説は憤りを隠さない。
 「感染者が急増し、病床が足りなくなりつつあることは理解できる。しかし、訪れた感染者を受け入れられないなら、医療行政担当者に連絡の上、代わりの適切な場所を探さなければならない。感染者を追い返すなどという残酷な仕打ちは、法律に反するのみならず、患者からその家族へ、そして社会へと感染拡大のリスクを高め、倫理の問題だ」
 社説はさらに、こう主張する。
 「政府は、新型コロナ患者の受け入れを怠った医療施設を罰するべきだ。パンデミックの脅威に直面した今、すべての関係者は法律や規則、ガイドラインに従い、感染の抑制を第一に考えるべきだ。新型コロナ患者を受け入れることで国に請求できないコストがかかることを懸念する私立病院があることも理解できる。受け入れるためには、医師や看護師たちの防護服や換気装置などが必要であるためだ。しかし、この危機的状況の中では、利益より救命が必要だ」
 利益より救命を、という社説の主張はもっともだし、感染者を受け入れる際に法外な金額を要求することがあってはならない。一方で、新型コロナの感染拡大が始まって1年以上が過ぎた今、われわれは医療が切迫するこの事態をはたしてどこまで予測できていたのか、との思いも募る。私たちは新型コロナウイルスを甘く見すぎていたのかもしれない。

 

(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2107471/all-hospitals-must-pitch-in)

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