新型コロナの変異株がインドからネパールに流入
「分かっていた危機」を避けられなかった政治家たちの失策を地元紙が批判

  • 2021/5/24

新型コロナの変異株によって1日に40万人を超える新規感染者が出ているインド。隣接するネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストは社説で、感染が拡大することを「分かっていたはず」であるにも関わらず阻止できなかった政府を批判しました。

ネパールでは隣国インドからの変異株流入により危機的な状況に陥っている (c) Bimal Ranabhat / Pexels

3月の警告

 社説によれば、ネパールの保健人口省は3月半ば、インドで新型コロナの感染者が急増していることについて国民に注意を喚起し、集会や社会的イベント、大勢の人が集まる場所をなるべく避けるよう呼びかけたという。さらに、インド国境から感染が拡大することを予測して、国境を接している州に対し必要な防疫策を講じるように指示をした。
 しかし、4月の終わりには、ネパールの新型コロナ実効再生産数(一人の感染者から何人に広がるかを示す数値)は2.09になった。実行再生産数は、1を超えると感染拡大に向かい、1を下回ると収束に向かうとされている。この数字が示す通り、ネパールの1日あたりの新規感染者は4月末に3日連続で5000人を超えた。治療中の感染者は3万4117人に上り、重症者も増えているという。
 「保健省によれば、4月だけで死者は216人、過去24時間だけで35人が亡くなった。累計死者数は3246人に上る。3月に保健省が最初に警告を発した時、治療中の感染者は1000人以下、1日あたり新規感染者も150人以下であったことを考えると、政府がインドからの感染流入を防ぐことができなかったという事実と、国民の予防意識の低さを示している」

インド国境州の惨状

 社説は、インドの状況を把握していながら準備を怠ったネパール政府を厳しく非難し、次のように述べる。
 「インドの感染状況がここまで深刻になっていても、いまだにネパール人の移民労働者たちのための隔離施設はなく、検査態勢も不十分で、感染経路が追跡できない。ネパール政府が十分な準備をしなかったために、いまやカトマンズ盆地にある病床はほぼすべて埋まっている。インドとの国境地域はもともと医療設備や人材が足りていないため、このような状態にとても対応できない」
 さらに社説は、インド国境州の状況についても詳しく伝える。
 「南東部のビルガンジ州では、新規感染者が増え過ぎた結果、病院の収容能力を超え、患者たちが同じベッドに横たわっている状態だ。ポカラの状況も同様で、限られた集中治療室の病床や人工呼吸器、医療用酸素をなんとかやりくりしている。また、スドゥパシュチム州では病院の医療人材が足りず、基本的なサービスさえ提供できていない上、医療資材も不足しており、感染者が増えるにつれて死者も増えている」
 その上で、この危機を乗り切るためには、「指導者たちはささいな政治ゲームを忘れて、国家と国際社会のリソースのすべてを動員し、国民の命を救い、危機的状況を乗り切らなくてはならない」として、「政府は戦時体制で臨むべきだ」と社説は訴える。
 「われわれは、備えるための貴重な時間をすでに失ってしまった。与党も野党も国家の緊急事態下で協力し、感染拡大を抑制するために重要な決断を下さねばならない。国民は日々、生命の危機にさらされ、生き延びようと必死である。準備期間があれば避けられたはずの危機的状況を招いてしまったのは、ひとえにネパールの政治家たちの意識の低さである。ただロックダウンをすればいいという問題ではない」
 新型コロナ対策においては、まず心を引き締めよ、という政治家たちへのメッセージだ。「こうなることは分かっていたはずなのに」という社説の指摘は、今、世界中の人たちに対して向けられたメッセージでもある。

 

(原文:https://kathmandupost.com/editorial/2021/04/29/lash-of-a-lockdown)

関連記事

ランキング

  1. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  2.  ミャンマーで2021年2月にクーデターが発生して丸3年が経過しました。今も全土で数多くの戦闘が行わ…
  3.  2024年1月13日に行われた台湾総統選では、与党民進党の頼清徳候補(現副総統)が得票率40%で当…
  4.  台湾で2024年1月13日に総統選挙が行われ、親米派である蔡英文路線の継承を掲げる頼清徳氏(民進党…
  5.  突然、電話がかかってきたかと思えば、中国語で「こちらは中国大使館です。あなたの口座が違法資金洗浄に…

ピックアップ記事

  1. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  2.  フィリピン中部、ボホール島。自然豊かなリゾート地として注目を集めるこの島に、『バビタの家』という看…
  3.  中国で、中央政府の管理監督を受ける中央企業に対して「新疆大開発」とも言うべき大規模な投資の指示が出…
ページ上部へ戻る