フィリピンの社説が東京五輪を歓迎
205カ国・地域からの参加に世界からの期待を指摘

  • 2021/8/8

 東京で7月23日に開幕した東京五輪。新型コロナのパンデミックが続くなかでの開催には賛否両論があったが、フィリピンの英字紙マニラタイムズは、7月25日付の社説でこの話題を採り上げた。

東京五輪には世界205カ国・地域から1万人以上が参加した (c) Alex Smith / Unsplash

ニューノーマルを考える

 冒頭、社説は五輪開催について、「開会式を見て楽観的になった」と、肯定的な意見を述べた。
 「我々は以前、コロナ禍で開催される東京五輪について、立場を保留していた。我々と同様に今回の開催に疑問を抱き、費用を無駄にするなとか、メンツを保つことが優先されたのではないか、といった見方をする人々も多かった。しかし、23日の夜に開かれた開会式を見て、生きることについての明るい見通しと、五輪が見せてくれるものへの感謝を改めて感じた」
 社説はもちろん、東京五輪が感染爆発の新たな要因になり得る可能性を否定はしていない。そのうえで、「コロナと共に生きる」ことを模索するべきだと主張する。
 「新型コロナのデルタ株によって、東京五輪がスーパースプレッダーイベントになってしまう可能性は否定できない。しかし、過去の社説でも議論した通り、人間は新型コロナとどのようにともに生きるかを学ばなくてはならない。最近の感染者の増加は、新型コロナを排除することの難しさを示しているが、私たちはこの危機が終わるまで立ち止まっているわけにはいかない。新型コロナとともに生きるということは、安全性を確保するための予防策を無視し、健康リスクがあることを否定するものではない。その代わり、私たちは<ニューノーマル>と呼ばれる生活様式を採り入れる必要がある。ワクチン接種を急ぎ、マスクをしたり、手を洗ったり、ソーシャルディスタンスを守ったりすることを続けなければならない。

無観客、「異様な」開会式

 東京五輪の開会式は無観客で、選手たちはマスクを着用していた。社説はこれを「異様なものだった」と表現。「しかし、選手たち自身は興奮していた。1年遅れの開催であっても彼らは誇りに満ちていた。驚くべきことに、世界205カ国・地域と難民チームの選手たち約1万1000人が参加したのは、驚くべきことだ。コロナ禍以前の2016年大会の参加国は207カ国だった」と指摘した。コロナ禍以前とほぼ同じ数の参加国だったという点を強調し、五輪開催を世界が支持している、という見方を示したのだ。 
 「五輪大会の重要な価値は、スポーツを通じて世界平和を実現することであり、対立する国々が、戦争ではなく、スポーツで力を競うことを多くの人が期待している。その願いを4年ごとに開かれる大会で実現するのが、五輪の舞台だ。米国もロシアも中国もスポーツで競い合う。国内に紛争を抱える国にとっても効果があればいいと願う。例えばミャンマー。東京五輪の代表選手たちが、それぞれの国に平和と民主主義へのインスピレーションを持ち帰ることを願いたい」
 社説は日本に対し、「人々の安全と健康を守ることは簡単なことではないだろう」と心を寄せ、次のように述べる。「65%の日本人が五輪開催に反対、または再延期を希望し、30万人の日本人が五輪開催に反対する署名をしたという。それでも日本は開催を決断した。しかし、この国の我慢強さを考えれば、驚くべきことではない。思い出してほしい。日本が五輪の開催地に立候補したのは、東日本大震災からまだ2年しかたっていないころだったのだ」
 その上で、「さまざまな意見がある中で、東京五輪は開催された。次に起きることを不安な気持ちで待つなんてやめよう。その代わりに、私たちは日本とすべての参加選手に幸運を祈ろう。もし、大会後に問題が起きたとしたら、私たちはそれを未来の国際的なイベント開催時に生かすべき貴重な糧としよう。そして、日本が五輪を成功させたとしたら、東京五輪は逆境を乗り越えた人間の魂の勝利として歴史に刻まれるだろう」と、呼びかける。
 日本人の65%が開催を反対しているのは、安全面のことだけでなく、世論に丁寧に向き合わなかった政府への憤りや、五輪の在り方そのものに疑問を抱いたためでもある。その意味では、社説の分析は表層的のようにも感じられる。しかし、「それでも205カ国・地域から選手が集まった」という指摘には、確かに五輪に寄せる世界の人々の思いが感じられた。

(原文:https://www.manilatimes.net/2021/07/25/opinion/editorial/tokyo-olympics-gains-symbolic-significance/1808292)

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