フィリピンと中国の間でくすぶる火種 南シナ海問題
船舶衝突で高まる緊張 一触即発の事態は避けられるか

  • 2023/12/20

 中国やフィリピンなどが領有権を争っている南シナ海の南沙諸島(英語名:スプラトリー諸島)で10月22日、フィリピン軍の輸送船と中国海警局の船が衝突した。フィリピン政府によると、軍の輸送船を警備していたフィリピン沿岸警備隊の巡視船と中国の海上民兵の船の接触も起きているという。フィリピン側は中国に対して強く抗議しており、両者の関係が急速に悪化する事態となっている。

フィリピン沿岸警備隊員が南シナ海のサビナ礁で中国の民兵船とみられる数隻の船舶を調査している様子(2021年4月27日撮影) (c) wikimedia commons / フィリピン沿岸警備隊、ロイター経由

正義の側に立ち続ることが核兵器並みの威力に

 フィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは10月25日付の社説でこの問題をとりあげ、「中国の行動は攻撃的だ」と批判した。

 中国の「強引な海洋行動」に対して外交的に抗議することは重要だ、と社説は主張する。なぜなら、「これまでフィリピンに偽善的な友好を示してきた巨大な隣国の行動に対する不快感を、公式に記録に残すことができる」からだ。その一方で、これまでは中国の挑発に対するこうした抗議が十分に効力を発揮してこなかったことを振り返り、「限界がある」との見方も示す。社説によれば、現政権はすでに中国に対して外交的な抗議を100回以上行っているが、「まったく効果がなく、中国の弱いものいじめの態度を改めさせるにはいたらなかった」という。

 親中派といわれた前ドゥテルテ政権を引き継いだ現在のマルコス政権は、当初、親中の姿勢をとっていた。しかし、この1年ほどは米国との距離を縮める政策へと転換している。

 社説は、中国の海洋行動に対して「中国とは異なり」という言葉を重ね、「わが国はレーザーを他船に照射して目くらませをしない」「海域を占領するために海上民兵の派遣をしておきながら自分たちとは無関係だと言い張ったりしない」「海を埋め立てて恒久的な軍事拠点にはしない」などと強い非難を列記した。そして、最後には「中国とは異なり、右手で握手して永遠の友好を誓いながら、左手で盗みを働き、背後から刺すようなことは、私たちは決してしない」と、痛烈に批判した。

 さらに社説は、フィリピンが2016年、南シナ海における中国の領有権主張や人工島の建設が国際法違反にあたるとして中国を提訴した裁判で「道徳的な勝利」をおさめたことを振り返り、次のように主張している。

 「私たちの軍事力は中国に比べればちっぽけなものかもしれない。しかし、中国の見せかけや二枚舌と比べれば、道徳的な武器は核兵器にも引けをとらない。正義の側に立っているということが私たちの最も強力な武器であり、中国の侵攻に対しては、引き続きこの姿勢で臨むべきだ」

「融資を受ければ付け込まれる」フィリピンの警戒感

 さらにデイリーインクワイアラー紙は10月28日付の社説で、フィリピン政府がミンダナオ島鉄道プロジェクトをめぐり中国からの融資の申し出に関する交渉を打ち切ったことを「もっとも賢明な判断」だと評価した。

 また社説は、フィリピンが国内で不足する鉄鋼や石油製品を中国から輸入し続けたりしている例を挙げながら、「貿易など一部の分野では経済関係と地政学的関係を切り離すことも妥当かもしれない」と、理解を示した。

 その一方で、「政府間援助の世界では、常に貸し手が借り手よりも優位に立つ。中国の融資には、フィリピンの利益に反するような、フィリピンにとって非常に不利な条件もあると見られる」と指摘し、中国に対する警戒心をあらわにした。

中国とASEAN、そしてアメリカ 国際情勢に揺れる南シナ海

 南シナ海における中国の海洋行動については、他のアジア諸国も注目している。船舶の衝突が起きる前の10月3日、シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、「南シナ海の危険なもつれ」と題した社説を掲載した。

 社説はまず、南シナ海の領有権をめぐって中国とフィリピン双方の活動が活発になっていることや、「フィリピンを守るという我々の決意は強い」というマルコス大統領の発言の背景にはアメリカの後ろ盾が強化されている現状があることなどを解説。そのうえで、「中国は、南シナ海が自国の南側を守り、太平洋とインド洋の両方にアクセスするために重要であると認識している」と指摘した。さらに、「台湾の国政選挙が近づくにつれ、中国の緊張がさらに高まることは間違いない。こうした状況下では、一触即発の事態を引き起こしかねない誤判断や事故が海上で起こらないことが何より望まれる」と述べた。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)も、何年にもわたりこの問題を繰り返し協議してきた。行動規範を設け、緊張緩和に向けた協議を重ねてきたASEANの取り組みを「遅らせている」のが、加盟国ではない中国だと社説は指摘する。

 アメリカが、中国の「封じ込め」を今後も積極的に続けるなら、南シナ海が新たな火種となる恐れも出てきている。

 

(原文)

フィリピン:

https://opinion.inquirer.net/167455/hit-china-where-it-hurts

https://opinion.inquirer.net/167581/pivot-away-from-chinese-loans

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/a-dangerous-tangle-in-south-china-sea

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