民主主義に突き付けられた短剣
タイ、新未来党に解党命令

  • 2020/2/27

 タイの憲法裁判所が2月21日、同国の野党「新未来党」の解党を命じた。同党は2018年、反軍政を掲げて結成された党で、結成後初めてとなる2019年3月の総選挙では、人民代表院の500議席のうち81議席を獲得し、躍進した。しかし、タナトーン党首が議員立候補時にメディア会社の株式を取得していたことが憲法に違反するとして、議員資格をはく奪された。タイの英字紙バンコクポストは解党命令が出た翌日付けの社説でこの問題をとりあげている。

憲法裁判所の解党命令を聴き、涙ぐむ「新未来党」のタナトーン党首(2020年2月21日撮影) (c) ロイター/アフロ

国際社会も批判

 タイ憲法裁判所の命令は、タナトーン党首が党に対して1億9000バーツ(約6億8000万円)の融資をしたことが、政党法に違反すると判断されたもの。この命令では、同党幹部16人に対し、政治活動を向こう10年間禁止することも含まれている。

 タナトーン氏が率いる新未来党は、反軍政を掲げたこともあり、若者たちからの支持を集めた。与党は総選挙での躍進ぶりを警戒していたため、今回の命令には「政治的な判断があったのではないか」との声が上がっている。

 国際社会の反応も批判的で、在タイ米国大使館や欧州連合はさっそく「総選挙で600万票以上を獲得した政党の解党は、タイの多党制を後退させる」といった内容の声明を出している。

 バンコクポスト紙の社説も、新未来党についてこう表現する。「タイは、過去20年以上にわたって終わることのない政治的混乱に見舞われてきた。その原因は、腐敗の疑いやイデオロギーの対立、軍事クーデターや憲法の拡大解釈によって立法や行政の機能に影響を与える司法積極主義というものだった。しかし、新未来党の政治家たちは、1年4カ月前に結党したばかりで、この混乱に加わることはなく、現状を変革する、新鮮で進歩的な課題を掲げた」。その上で、社説は、「新未来党の解党は、タイという国に深く隠されていた政治不安が、また始まりつつあることを示している」と、指摘する。

影響は広範囲に

 タナトーン氏による党へのローンについて、社説は「政党がローンを利用することは過去にもあった。実際、新未来党に限らず、多くの政党が活動資金としてローンを活用していた」との見方を示す。新未来党は、「政党法が禁止していないことであり、正当な手段だ」と主張していた。

 しかし、憲法裁判所は、「政党は公的な組織であり、明確に法令に定められていないこと以外は禁止事項だ」とした上で、「通常の商習慣を適用しないローンは寄付金であり、その額は、一人からの寄付額として定められた1000万バーツという上限を超えている」と判断した。社説は「新未来党が、寄付の上限を超える資金を取得するための抜け道としてローンという名目を利用したと裁判所が判断した」と、解説している。

 さらに社説は、今回の裁判所の判断に対し、今後、「政治的な動機がある」として路上の抗議活動などが起きる可能性も指摘しているほか、「この命令の影響はそれにとどまらず、広範囲にわたるだろう」と、指摘している。

 「まず、同じようにローンを活用している他の政党に対しても、同様の判断が下されるのか、多くの人々が疑問を抱くだろう。さらに、600万票を得た政治的な選択肢を失うことで、特に、新未来党を支持した若者層の憤りに火がつくのは避けられない。傷口は今、開かれたばかりのように見えるが、この国の政治的対立という傷は、すでに大きく、深くなっているのだ」。

「いい加減にしてくれ」という思いが随所ににじむ、社説である。

(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1863029/a-dagger-to-democracye)

 

 

 

関連記事

 

ランキング

  1.  ドイツ・ベルリンで2年に1度、開催される鉄道の国際見本市「イノトランス」には、開発されたばかりの最…
  2.  今年秋、中国の高速鉄道の総延長距離が3万マイル(4.83万キロ)を超えた。最高指導者の習近平氏は、…
  3.  日本で暮らすミャンマー人が急増しています。出入国在留管理庁のデータによると、2021年12月に3万…
  4.  ドットワールドとインターネット上のニュースサイト「8bitNews」のコラボレーションによって20…
  5.  11月5日に投開票が行われた米大統領選挙では、接戦という事前の予想を覆して共和党のドナルド・トラン…

ピックアップ記事

  1.  11月5日に投開票が行われた米大統領選でトランプ氏が再選したことによって、国際情勢、特に台湾海峡の…
  2.  ジャーナリストの玉本英子さん(アジアプレス・インターナショナル)が10月26日、東京・青山で戦火の…
  3.  ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロス…
  4.  米国・ニューヨークで国連総会が開催されている最中の9月25日早朝、中国の大陸間弾道ミサイル(ICB…
  5.  「すべてを我慢して、ただ食って、寝て、排泄して・・・それで『生きている』って言えるのか?」  パ…
ページ上部へ戻る