人命を奪う大気汚染 いまだ化石燃料から脱せぬアジア
汚染物質を除去し、再生可能エネルギーへシフトできるか

  • 2024/4/2

 世界各地で問題になっている大気汚染。地球規模での対応が必要なのは言うまでもないが、アジア諸国もそれぞれの課題に向き合い、解決策を模索している。

(c) Unsplash / chris robert

NASAとフィリピンが空気中を浮遊する汚染物質について共同研究

 フィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは、2月18日付の社説でフィリピン政府の大気汚染に対する取り組みについてとりあげた。

 社説によると、フィリピン環境資源省はこのほど、大気汚染の問題についてアメリカ航空宇宙局(NASA)との共同研究を行った。NASAがアジアの4カ国を対象に空気中に浮遊する汚染物質の程度について進めていた調査にフィリピンから5人の専門家が参加し、NASAと共同で航空機から大気の観測を実施。粒子状物質やオゾン、二酸化炭素、メタンなど、地上では測定できない汚染物質を測定した。この調査によって、大気汚染に対する理解促進と、正確な測定や予測、効果的な対策に向けた政府の能力向上につながることが期待されているという。

 社説によると、フィリピンの大気汚染の原因は8割が排気ガスによるもので、2割が化石燃料に起因している。汚染の状況は年々、改善傾向にあるものの、根本的な解決には至っていない。その影響は甚大で、大気汚染はフィリピンにおいて死亡や障害を引き起こすリスク要因のうち、3番目に深刻だと社説は指摘する。大気汚染によって慢性心疾患や肺疾患、肺がん、脳卒中などが引き起こされ、2019年には6万6000人以上が死亡したという。

 社説は、「NASAとの共同調査により知見やノウハウが得られても、制度や支援が整わなければ無意味だ」と指摘。必要な対策として、化石燃料への依存度を低くすることや、ジプニー(乗合バス)をはじめとする車両の近代化、公共交通機関の改善などを挙げた。

「バングラデシュ政府は足元の天然ガスに目を向けよ」

 フィリピンと同じように大気汚染に苦しみ、化石燃料への依存度を早急に下げることを求められている国がある。バングラデシュだ。バングラデシュの英字紙デイリースターは、2月17日付で「再生可能エネルギーはなぜいまだに軽視されているのか」と題した社説を掲載した。

 社説によると、バングラデシュ政府は再生可能エネルギーへの移行を公約しているものの、実際には今も化石燃料に大きく依存しており、再生可能エネルギーの発電能力は、全体のわずか4%にすぎないという。

 さらに社説は、「まだ探査されていない天然ガスがバングラデシュに埋蔵されている可能性が世界で最も高いことを政府も承知しているにも関わらず、なぜいまだに高価な液化天然ガスを輸入し続けるのか」という専門家の指摘を紹介する。報道によれば、エネルギーを輸入していることによる債務負担は大きく、バングラデシュの石油公社などは、世界の供給業者に対して7億ドルの未払い金があるという。

 「バングラデシュの再生可能エネルギー利用率は南アジア諸国の中で最下位であり、政府がいかにこの分野を軽視しているかを物語る。このままではいけない。再生可能エネルギーをもっと重視すべきだ」

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 工業先進国の責任が「より重い」とされる環境汚染問題だが、自国を守るために対策をとらねばならないのは、途上国も同じだ。先進国、途上国がともに地球規模の視点を持って取り組むことが、状況改善への近道になるだろう。

 

(原文)

フィリピン:

https://opinion.inquirer.net/170982/mission-improve-air-quality

バングラデシュ:

https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/why-renewable-energy-still-neglected-3545861

 

 

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