フィリピンで「新型コロナ」隠れ蓑に麻薬犯が脱獄か
相次ぐ不可解な死亡発表に募る疑惑

  • 2020/8/5

 フィリピンで7月中旬、ニュービリビッド刑務所に服役していた複数の麻薬犯が相次いで死亡していたことが報道され、国中を騒然とさせている。フィリピン各紙が同刑務所の死亡者リストを掲載し、明らかになった。7月23日付のインクワイアラ―紙は、この問題を社説でとりあげている。

フィリピンで服役していた麻薬犯の獄中死が相次いで発表され、脱獄が疑われている (c) GRAS GRÜN / Unsplash

司法解剖も遺体の確認もなし

 今回報じられた麻薬犯らの死亡報道について、社説は「フィリピン矯正局にはもともとかんばしくない腐敗のうわさが絶えなかったが、今回の件で評判は一層、悪くなった」との見方を示す。特に注目されているのが、リストの中に含まれていたジェイビー・セバスチャン服役囚だ。

 セバスチャン服役囚は大物麻薬犯で、レイタ・デリマ上院議員(当時)が麻薬組織から多額の政治献金を受け取っていた疑惑で逮捕された事件の重要参考人にもなっている。社説はこのセバスチャン服役囚が7月18日に心臓発作によって死亡したが、新型コロナウイルスにも感染していたと発表されたことを伝えた上で、「遺体はすでに火葬されており、この発表は確認されていない」と指摘する。「司法解剖は行われなかった上、火葬場の職員も遺体の袋を開けることは許されなかった」

 公表された死亡者リストには、このほかにもフランシス・ゴーやジミー・ヤン、ベンジャミン・マルチェロ、ジミー・キン・シンら、名の知られた服役囚が含まれているという。これについて社説は、「はたして彼らは本当に新型コロナウイルスに感染して死亡したのだろうか」と疑問を呈し、「新型コロナウイルスを隠れ蓑に彼らの脱走が隠蔽されているのではないだろうか」との見方を示す。すなわち、新型コロナウイルスで死亡したという理由で司法解剖が行われず、誰も遺体を直接見ることができないまま火葬されたと発表されているが、その裏で遺体がすり替えられ、麻薬犯たちは逃亡したというのが真相ではないか、と指摘しているのだ。

 実際、他国ではこうした事件が発生しており、「あり得ないシナリオではない」と社説は述べる。矯正局長が「プライバシー・データ法に基づき、火葬された服役囚の身元の詳細は明らかにできず、死亡確認はできない」と発言したことで、疑惑は一層深まったという。

矯正局は真相の究明を

 この発言に対し、プライバシー委員会のレイムンド・エンリケ・リボロ委員長は「矯正局長はプライバシー・データ法を盾に人々の知る権利を否定しているに過ぎない」と、強く抗議した。

 社説も、「治療記録や死亡証明書も公開されず、不可解な点や疑問があまりに多いため、国民は真相を知りたいと熱望している。上院も、この問題の調査を求めることを決議した。特に問題だとされているのは、死後に司法解剖が行われなかった点や、遺体の袋を開けないまま火葬された点だ」と指摘し、事実の解明を強く訴える。

 国民が安心して暮らすために矯正局はできることは何か。一案として、社説は、セバスチャン服役囚の遺体の写真の公開を提案している。

 もし、本当に新型コロナウイルスの感染拡大を利用して複数の大物麻薬犯が脱獄したのであれば、それは法治国家として決してあってはならない事態であると同時に、実際に新型コロナウイルスに感染して苦しんだり、対策に奔走したりしている人々に対する冒涜でもある。また、すり替えられた遺体は誰なのか。社説の主張の通り、真相の究明を強く求めたい。

 

(原文:https://opinion.inquirer.net/132037/too-many-unanswered-questions)

 

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