バングラデシュで日ごとに増加する交通事故
悲劇を重ねる前に先進国の教訓生かせ

  • 2020/3/11

 バングラデシュで近年、交通事故死が増加の一途をたどっている。3月8日付けのバングラデシュの英字紙デイリースターは、社説でこの問題を採り上げた。

バングラデシュでは、さまざまな原因から交通事故数が増加の一途をたどっている (c) Lucian Alexe / Unsplash

一つひとつの事故に想像力を

 社説は、3月6日に起きた交通事故の描写で始まる。

 「3月6日の一日、国内のさまざまな場所で、少なくとも23人が交通事故で死亡し、9人が負傷した。ある場所では、婚約式に参加する人々を乗せたマイクロバスが路肩の木に激突し、10人が死亡した。また、別の高速道路では、マイクロバスがバスと衝突し、ガス・シリンダーが炎上して6人が死亡した。さらに、首都ではダッカ大学に通う学生のバイクがバスと衝突し、大学生が死んだ。私たちが懸念するのは、こうした事故が毎日起きているにもかかわらず、交通行政や交通事業者たちは何ら影響を受けることなく、愛する者を奪われた犠牲者の家族だけが、無言のうちに悲しみにさいなまれているということだ」

 交通事故は、どの国でも毎日のように発生している。その数があまりに多いため、詳細に報道されるものはほとんどなく、私たちは、とかく一つひとつの事故が持つ重さを忘れがちだ。少しずつであれ、事故の内容がこうして具体的に描写されれば、事故によってもたらされる悲劇の大きさが改めて想像される。

求められる道路交通法の徹底

 社説によると、バングラデシュ国内で今年1月に報告された事故は、少なくとも340件で、445人が死亡、834人が負傷した。わずか1カ月のうちに起きた出来事である。相次ぐ交通事故の対策に政府がようやく動きだしたのは、2018年のことだ。道路交通法を策定し、交通安全の啓発活動も集中的に開始した。また、長距離ドライバーに対し、運転時間の規制などを含む指示も出された。しかし、それでも事故数は増加の一途をたどっており、こうした対策がいまだ不十分であることを証明している、と社説は指摘する。

 さらに、増加の背景については、交通の専門家らによる次のような見解を紹介する。「不適切な車両の使用や、無謀な運転、運転手自身の能力の欠如、体力や精神的な面での不安定さ、労働時間の問題などに加え、交通行政の粗末さや、バングラデシュ交通局の能力の欠如、さらに、一般国民が交通ルールについて十分な知識を持たず、ルールを無視する傾向があることなど、さまざまな要因が挙げられる」

 その上で社説は、政府に対し、こうした現実を直視し、2018年道路交通法の施行の徹底を求めている。「運転手の技術向上に努めるとともに、すべての高速道路に分離帯を設置し、運転手の労働環境の改善に取り組み、高速道路上での低速走行を禁止することなどが必要だ」

 かつて、日本でも交通事故死が急増し、「交通戦争」と呼ばれた時代があった。そのピークは1970年代で、年間の死亡者数は1万人を超えていたが、2019年には3,000人余りに減っている。信号や歩道橋の設置、道路の整備といったハード面に加え、啓発活動が人々の意識を変える上で大きな役割を果たしたことが、その背景にある。悲劇が重なってから気づくのでは遅い。先進国の教訓を、このような分野にこそ、生かしてほしい。

 (原文:https://www.thedailystar.net/editorial/news/road-crash-casualties-rising-the-day-1877689)

 

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