フィリピンでジャーナリストと法律家の殺害相次ぐ
暴力の犠牲者に対する無関心を地元紙が警告
- 2020/12/10
その職業や立場ゆえに命を狙われる、ということがどの国でも起こり得る。フィリピンでは特に、ジャーナリストや法律関係者の殺害が目立ち、ドゥテルテ政権下で20人のジャーナリストと、53人の法律関係者が犠牲になっているという。フィリピンの英字紙インクワイアラーは、11月28日付の社説で相次いで起きているジャーナリストや判事、警察官らの殺害事件についてとり上げた。
悲劇に無感覚に?
社説によれば、フィリピンでは今年11月だけでジャーナリストや判事たちを狙った殺害事件が次の通り相次いでいる。
11月11日、マリアテレサ・アバディラ判事が射殺。11月14日、ジャーナリストのロニー・ビラモア氏が射殺。11月17日、弁護士のエリック・ジェイ・マカミット氏が車から降りたところで射殺。11月21日、元警察官のウォルター・アナヨ氏が射殺。11月23日、弁護士のジョエイ・ルイ・ウィー氏が射殺。これだけの事件がたった1カ月間に起きているというのは、驚くべき事態だ。
社説によると、この状況を受け、ジャーナリスト団体はすぐに怒りと懸念を表明した。バンコクに拠点を置くジャーナリスト保護委員会(CPJ)は、ビラモア氏の殺害事件が起きた背景について、独立機関による捜査を求めた。CPJの調べによると、11月14日の午後にビラモア氏を射殺したのは、フィリピン国軍の兵士だという。氏は、フィリピン中部マスバテの地方紙に寄稿していたジャーナリストだ。地元ニュースは、ビラモア氏が先に武器に手をかけたために兵士たちが反撃したと伝えているが、フィリピンジャーナリスト組合はこれを否定している。CPJの東南アジア代表も「犯人の訴追こそが、フィリピンで繰り返される不処罰の連鎖を断つ唯一の方法だ」と指摘しているという。
その上で社説は、これらの事件に世間が「無関心、無感覚」であることを嘆く。
「新型コロナのパンデミックのさなか、ある日突然に職や食い扶持を失ったり、100年に一度と言われる大きな台風や洪水に見舞われたり、政治不安が募ったりして、フィリピンの人々はジャーナリストや司法関係者らの殺害事件にまで関心を向けていられないのかもしれない。しかし、背後に国家権力があるかどうかによらず、暴力の犠牲者がいることを明らかにし、司法による正義を追求する必要がある」
法と秩序が崩れるとき
一方、弁護士団体も、同じように暴力への憤りを表明した。社説によれば、フィリピン弁護士協会のパラワン支部は、弁護士マカミット氏の殺害を強く非難した。「市民社会に暴力が存在する余地はない、というのが我々の一貫した立場である。特に、勇気をもって司法を担っている法律の専門家たちへの暴力は、決して許されざることだ。マカミット氏の殺害は、一人の協会メンバーへの攻撃という意味にとどまらず、法秩序と司法システムへの暴力であり、脅しなのだ」
社説によれば、メディア・セキュリティのために大統領直属のタスクフォースが政府内に設立されているものの、ビラモア氏の事件についてはなんら対応が取られていないという。
社説は、司法長官がこうした殺害事件への対応が遅くなる理由として、目撃者が足りないこと、殺害のプロが起用されていること、そして証拠が足りないことの3点を挙げたと伝え、こう主張する。「おそらく、私たちは警察や軍や司法が正義をもたらすのを待つことに疲れ、諦めてしまった。しかし、こうした無関心こそ殺害者をずうずうしくのさばらせる」
「ひとたび法と秩序が崩れ去れば、ジャーナリストや法律家に限らず、私たちすべての生命が危険にさらされるのだ」というメッセージから危機感が伝わってくる。
(原文: https://opinion.inquirer.net/135680/when-numbness-sets-in)