コロナ対策で問われるパキスタン政府の責任と役割
感染拡大から国民を守れる首相像は

  • 2020/6/15

新型コロナウイルスの感染が今も拡大するパキスタン。パキスタン政府は5月27日、「経済への打撃があまりに深刻」だとして、都市封鎖を一部解除する決定をした。6月13日のパキスタンの英字紙ドーンは、社説でこの問題をとりあげた。

パキスタンでは、手洗いやマスクの着用、人との距離を置くといった新型コロナウイルス対策のことを「標準行動基準(SOP)」と呼んでいる (c) Burst / Pexels

国民に「落胆」

 6月13日現在、パキスタン国内の新型コロナウイルス感染者数は13万人を超え、死者も2,600人を超えている。社説によれば、こうした新型コロナウイルスの感染者数の急増により、一日あたりの平均死者数は100人近くに上り、国内の医療崩壊を招いているという。具体的には、患者を収容する医療施設が不足している上、治療にあたる医療従事者もまったく足りていない。

 社説は、こうした感染者数や死者数について、「公的な病院で確認された数であり、実際の数はもっと多い可能性がある」との見方を示す。

 急速に感染が拡大し続け、終息への道筋が見えないパキスタンの現状と国民の意識の低さについて、イムラン・カーン首相は「落胆した」とテレビで語ったと社説は伝えている。さらに首相は、多くの国民が新型コロナウイルスは存在しないとか、本当は死者が出ていないと信じていることも嘆いたという。

政府の責任とは

 上記のようなカーン首相の発言を伝えた上で、社説は首相の姿勢に疑問を示する。同国では、手洗いやマスクの着用、人との距離を置くといった新型コロナウイルス対策のことを「標準行動基準(SOP)」と呼んでいる。SOP自体が誤っているわけではないが、SOPの遂行を国民一人一人にゆだねるだけでいいのか、というのが社説の指摘だ。

 「新型コロナウイルスの感染を抑止するための政府のメッセージは非常に弱かった。政府の役割は、単に国民に注意を促すだけではなく、より効果的なメッセージを発信し、積極的な啓発活動をする必要があるはずだ。都市を封鎖せず死者数を抑制するためにはその方法しかない」

 社説はさらに「首相は、新型コロナウイルスの存在を信じていない人たちの多さを嘆いているが、もしその通りなら、それは政府による啓発活動や指導がうまくいっていないからであることを認識しなければならない」と指摘。「多くの感染者が出ている状況下でルールの順守を各自の自主性に任せ、感染を自己責任に帰結させるのは危険だ」と述べ、感染拡大を抑止するためには、一定の強制力をもって国民を巻き込んでいく必要があると訴える。

 ここで社説は、新型コロナウイルス対策の中で都市封鎖を実施しなかったスウェーデンの例を出す。経済を止めないための同国の決断は、一時、国際社会から注目されたが、結果的には人口100万人あたりの死者数が非常に高くなってしまった。「パキスタンがスウェーデンと同じ道をたどるべきではない」と、社説は呼び掛ける。

 「新型コロナウイルスとのたたかいは厳しく、時間もかかる。だからこそ、政府はこれ以上の感染拡大を食い止めるために、SOPの徹底に向け、今の段階から国民への啓発に予算を投入すべきだ。SOPを守らない人がいるなら、その理由を突き止め、改めさせなければならない。それこそが、国民を真の意味で感染から守ることになるのだから」

(原文:https://www.dawn.com/news/1563192/blaming-the-people)

 

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