ロシアのウクライナ侵攻と各国の報道5
ウクライナ侵攻から2カ月、各紙はどう報じているか
- 2022/5/8
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって2カ月余りが過ぎた。攻撃の模様や被害の規模、そして国境を越えて避難する人々の姿が連日、報道されているが、収束の兆しは一向に見えない。アジア各紙の社説も、それぞれの視点でウクライナ問題を論じている。
戦争犯罪の調査を求めるシンガポール
東南アジア諸国の中で、唯一、ロシアに経済制裁を科しているシンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、4月18日付の社説で「戦争犯罪の調査を」と主張した。
社説は、「ロシアのプーチン政権による戦争犯罪は、最大限の真剣さとともに調査されなければならない。なぜなら、誤ったことは正されなければ、世界のどこででも起こり得る軍事侵攻を抑止することができなくなるからだ」と、指摘している。
社説によれば、3月、39カ国の政府が国際刑事裁判所(ICC)に対し、ウクライナでの戦争犯罪と人道に対する罪について調査を開始することを求めた。社説によれば、「戦争犯罪」とは、意図的な市民の殺害、病院や学校、歴史的モニュメントなどへの攻撃により、軍事目的を超えて甚大な数の市民の犠牲者が起きた場合などに適用されるという。また、「人道に対する罪」には、市民に対する組織的、かつ直接的な攻撃や、その認知が含まれる。
「ロシア政府は市民を攻撃の対象としたことを否定しているうえ、ロシアもウクライナもICCの加盟国ではない。しかしロシアは、(傷病者、難船者、捕虜、文民などの保護を目的とした)ジュネーブ条約を批准しており、今回、ロシア側が『軍事行動』と称する現在の状態もその対象に含まれる」
社説は、ICCにおける戦争犯罪の訴追について、「成功例は極めて少ない」としながらも、「それでも国際社会は犯罪者を裁くために努力を惜しんではならない」と訴えている。
マレーシアはダブルスタンダードの偽善を批判
「難民と偽善」という刺激的なタイトルでウクライナ問題の一面を論じたのは、マレーシアのニューストレイツタイムズだ。4月23日付の社説では、ウクライナ難民が国際社会から注目され、支援を受けている一方、たとえばミャンマーから逃れた少数派イスラム教徒ロヒンギャのように顧みられない人々もいる、と不公平さを指摘した。
同様の例として、社説は、フランスがウクライナから逃れてきた子どもたちに対し、到着当日から学校へ通い、語学教室で授業を受けられるように用意するなど、「できるだけ早く通常に近い生活を取り戻すことができるような取り組みが行われている」と指摘。その一方で、「白人」であるウクライナ難民と、「有色」であるアフリカや中東の国々から来た難民への対応は大きく異なっており、「欧米諸国に“ダブルスタンダード”が存在する」と述べ、「偽善」だと非難する。
そのうえで社説は、「われわれにも偽善がある」と内省する。例えば、前出の少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々への対応だ。マレーシアでは4月20日未明、500人を超えるロヒンギャ難民が収容所から脱け出し、うち6人が高速道路を渡ろうとして事故死した事件が起きた。
社説は、「マレーシアでは、国連で難民として認定されていないロヒンギャの人々の就労や定住を受け入れていない」と指摘した上で、次のように述べ、「我々はどうか」と読者に問いかける。
「我々が白人と定義しているボスニアやパレスチナ、シリアなどからの難民はマレーシアで普通の生活を送ることが認められているにも関わらず、“有色”であるロヒンギャの人々は、受け入れはしても定住を認めていないのは、ダブルスタンダードではないのか」
米印の協力体制の強化を歓迎するインド
他方、インドはロシアに対する姿勢を鮮明にできず、ジレンマに陥っている。インドにとってロシアは最大の武器供給元であり、友好国であるからこそ、国連での対ロシア制裁決議もすべて棄権してきた。
そのインドのもモディ首相が4月11日、アメリカのバイデン大統領とオンラインで会談した。報道によれば、この会談でバイデン大統領はモディ首相に対し、ロシアと距離をとるよう促したという。
インドの英字紙タイムズオブインディアは、4月22日付の社説で、「世界最大の2つの民主国家であるインドとアメリカは、世界の秩序を維持するためにパートナーであり続ける必要がある」と主張し、ロシアをめぐる米印の接近を歓迎する論調を示した。
社説は、バイデン大統領がインドによるロシアからの武器購入について、「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)を発動するかどうかは決定していない」と明言したことを評価し、パキスタンを視野に入れた対テロ政策や科学技術面での協力体制の強化は進んでいる、との見方を示した。
さらに、ロシアと中国の関係について、「国連において、中国がロシアを外交的に支援する姿勢を打ち出しているのは、ウクライナ侵攻が終わった後の欧米を中心とする中国包囲網に対抗するためだ」と指摘。「だからこそ、インドとしては、中国やロシアと足並みをそろえるわけにはいかない」と訴えている。
(原文:)
シンガポール:
マレーシア:
https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2022/04/791122/nst-leader-refugees-and-hypocrisy
インド: