ネパールの海外移民労働者を守れ
出稼ぎの禁止より搾取の阻止に動き出した政府の取り組み

  • 2019/12/4

 ネパールは、昔から移民労働者の多い国として知られている。2018年の統計によると、世界各地で働くネパール人から祖国へ送られるお金は81億ドルにおよぶ。これは、世界で19番目に多い額なのだそうだ。そしてこの「海外送金」は、ネパールのGDPの3分の1に当たるという。この国の人々の暮らしが、海外移民労働に頼っていることがよくわかる。11月26日付のネパールの英字紙カトマンズ・ポストでは、海外移民労働者をもっと政府が守るべきである、という議論を展開している。

ネパールでは出稼ぎ労働者が国外から家族に送る送金が国家経済を支えている (c) Terry Boynton / Unsplash

貧困家庭にとって唯一の手段

 社説は、ネパールの人々が海外労働を選ぶ過程についてこう表現している。「自宅の近くで仕事を探すことができないとき、人々はどこか別の場所で仕事を探さざるを得ない。海外出稼ぎは、貧しい家庭の人たちが家族を支えるための唯一の手段である」

 しかし、その出稼ぎにはいくつもの障害がある、と社説は指摘する。例えば、海外移民労働するための費用。仲介業者への手数料、入国ビザや航空機の費用、さらには受入国での健康診断費用など、多額の支度金が必要になる。また、給料が当初言われていた額よりも少ないこともしばしばある。こうした状況を見過ごし、十分な支援をしていないネパール政府の責任は最も重い、と社説は指摘する。

 「こうした障害のすべてが、海外移民労働者の経済状況や健康に大きな影響を与える。政府は彼らの安全を確保することなく、海外で働くことを禁じてしまった。例えば政府は、ネパール人女性が湾岸諸国でメイドとして働くことを禁じた。しかし、これは実質、機能していない。女性たちは自分たちでリスクを負いながらも出稼ぎに行かざるを得ない。政府はようやく、海外出稼ぎを禁止するよりも、搾取を阻止することの方が国民にとって良いことに気づいた」

改善も見られるが

 政府の「気づき」を受けて、2つの改善点があった、と社説は述べる。第一に、省庁の地方分権化が進み、海外雇用局が国内各地に窓口を持ったことだ。海外へ行きたい人は、わざわざ首都カトマンズまで費用をかけて出てくる必要はなく、地方でサ-ビスが受けられるようになった。

 もう一つの改善は、政府が悪質な仲介業者の摘発を本格化したことだ。悪質な仲介業者にだまされた人に損害補償が出るだけでなく、ネパール人をだましても罰を受けないと考える人たちの悪事を阻止する効果がある。

 こうした評価の一方、いまだ対応が十分ではない点も指摘されている。ネパールでは2015年に、仲介業者へ支払う手数料にはビザ代や航空機代なども含まれており、その額は20,000ルピーを超えないこと、という「フリービザ、フリーチケット」という制度が成立した。しかし、実際には実施されておらず、この制度の実施が重要な課題になっているという。

 また、受入国への働きかけも大切だ。社説ではネパール側が、代表的な受入国であるマレーシアに対し、ビザや健康診断の費用の軽減などを求めたことを評価しつつも、まだ実現はしていない、と指摘している。

 

(原文:https://kathmandupost.com/editorial/2019/11/26/the-government-must-continue-to-ease-the-burden-out-migrants-face)

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