タイで大気汚染が深刻化
焼き畑の背景にある食料需要の高まりに対応せよ

  • 2021/3/27

 タイでは、これまで焼き畑による煙害が大気汚染の主な原因とされ、社会問題になっていたが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影にかくれ、注目されていないという。3月14日のタイの英字紙バンコクポストは社説でこの問題を採り上げた。

タイでは焼き畑が大気汚染の原因の一つと指摘されている(c)William Krause/Unsplash

PM2.5濃度は安全基準の約16倍

 タイをはじめ、インドシナ半島の国々にとって、4月は一年で最も暑い季節だ。タイでは、ソンクランと呼ばれる祭りの季節でもある。
 他方、3月から4月にかけてタイの空は陰鬱だ。特に3月は大気汚染が深刻で、北部タイの状況は非常に悪いという。その主要な原因とされているのが、農地や森林を焼いて農地に変える、いわゆる「野焼き」だ。
 「国連の世界保健機関(WHO)によれば、PM2.5の平均濃度は25µg/m³以下であれば人体にとって安全だという基準を設けているが、チェンマイでは毎年3月に172.6µg/m³、また起伏の多いメ―ホーソン県パイでは400 µg/m³を記録することがあるという。安全基準に比べ、3~16倍も高い。人口620万人を擁する北部タイの大気汚染のひどさは明白だ」
 にも関わらず、今年はコロナ禍の影響から、例年のような大気汚染の防止キャンペーンは行われておらず、政府も真剣に対策を講じていない、と社説は指摘する。
 「メディアは大気汚染について報道せず、政府も感染症対策に躍起だ。しかし、目をそらすわけにはいかない。大気汚染を軽減しなければ、北部タイは取り返しのつかないダメージを受けることになる」
 その上で社説は、「公衆衛生の危機に直面している」と警鐘を鳴らす。
 「人々の命が奪われるのを座して待つのか。最近発表された保健省保健局長の論文によれば、現在、25万人もの人々が眼や鼻に違和感があり、3万人が呼吸器系の疾病で治療を受けている」
 さらに大気汚染は、健康のみならず経済にも悪影響を与えるという。
 「コロナ禍の影響でチェンマイのホテルは稼働率が90%以上落ち、例年の3~5%にとどまっている。このうえ大気汚染を放置すれば、このわずかな訪問客すらみすみす逃すことになり、状況は悪化するだろう」

問われる企業の社会的責任

 社説は、「これまでの大気汚染対策は明確な意思や理解のないまま漫然と実施されていたため、これといった成果が上がっていない」と指摘する。PM2.5の測定が開始され11年になるが、北部地域状況をどう改善するのか、本格的な対策はとられていないためだ。
 さらに社説は、国立公園野生動植物保護局が発表した2019年の報告書について、「大気汚染の原因として、森林火災、焼き畑、そしてミャンマーやラオス国境からの煙霧、の3点を挙げ、焼き畑による煙害より森林火災の方が深刻だと指摘している」と紹介。その上で、「これは衛星写真を基に出された推論に過ぎない。実際には、焼き畑の作業時間は短く、衛星写真には映らないだけだ」
 ひとたび森林や原野の植物を焼き、農地にすると、その後、10年~数十年間は土の力が回復するのを待つ必要があるため、どんどん場所を移って焼き畑を繰り返すことになる。
 また、北部タイでは、近年、食肉の需要が急速に高まり農地の需要が急増しているという。
 「焼き畑を行う農家だけを責めるのではなく、大気汚染の社会経済的な側面を視野に入れて議論しなければならない。なぜ人々が高地で森林を焼いて畑にしているのかといえば、畜産のえさになる穀物やサトウキビを育てるためだ。つまり、焼き畑が広がる背景には、食肉の需要の急増があるのだ。食品産業には、国や民間企業、特にCPグループも関わっている。本来なら、大手企業が社会責任として大気汚染の防止に取り組むべきだが、残念ながらそうした様子はない」
 新型コロナは一向に収束の気配をみせないが、それでも人々はウィズコロナの世界で活動を再開し始めている。人々の動きがまた活発になったとき、大気汚染の問題を放置したら、この国は置き去りにされるーー。社説にはそんな危機感がにじむ。

 

(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2083219/dont-take-toxic-air-problem-lightly)

関連記事

ランキング

  1.  新型コロナウイルス対策として、10カ月にわたり封鎖されていたミャンマー最大都市ヤンゴンのシュエダゴ…
  2.  ミャンマー国軍によるクーデターは、もはや一国の問題にとどまらず、中国や東南アジア諸国連合(ASEA…
  3.  ミャンマー国軍によるクーデターから7日目の2月7日、クーデターに反対する市民らが大規模なデモなど抗…

ピックアップ記事

  1.  新型コロナウイルス対策として、10カ月にわたり封鎖されていたミャンマー最大都市ヤンゴンのシュエダゴ…
  2.  ミャンマー国軍によるクーデターは、もはや一国の問題にとどまらず、中国や東南アジア諸国連合(ASEA…
  3.  ミャンマー国軍によるクーデターから7日目の2月7日、クーデターに反対する市民らが大規模なデモなど抗…
ページ上部へ戻る