過激な政策のアルゼンチン新政権に南アジアが注目
長引く経済危機が生んだ「政界のアウトサイダー」の行方は
- 2024/1/4
南米アルゼンチンで2023年11月19日、大統領選の決選投票が行われ、野党で右派のハビエル・ミレイ下院議員(53)が勝利した。アルゼンチンは年率140%以上の高インフレにあえいでおり、自由至上主義を掲げるミレイ氏は、自国通貨からドル経済への転換や中央銀行の廃止など、過激な改革を訴えている。
「奇人」と呼ばれ、「政界のアウトサイダー」として知られるミレイ氏の勝利に、南アジアのメディアが強い関心を寄せている。
体制の『爆破』を目指すミレイ氏 経済は健全化なるか
インドの英字メディア、タイムズオブインディアは2023年11月21日付紙面で、トレードマークの「チェーンソー」を掲げたミレイ氏の写真とともに、「チェーンソーマン:なぜアルゼンチン有権者の選択が、あらゆる国の経済政策の教訓になるのか」と題する社説を掲載した。
社説は、ミレイ氏を大統領に選んだアルゼンチンの民意をこう分析する。「極端な経済停滞と終わりの見えない混乱が続くと、既存のシステムの『爆破』を約束してくれる人物が、最良の選択に見えるのだ」
そして、ミレイ氏の大統領就任について「突拍子もない異常事態」として目をそらすのではなく、他の国々は反面教師としてとらえるべきだ、と主張する。社説は、これまでのアルゼンチン政府の経済政策について、「見せかけの統計に踊らされ、事実を主張する経済学者たちを罰してきた。次々に無謀な対外借入れをしながら、持続不可能な形で自国通貨を発行した」と手厳しく批判。その一方で、ミレイ氏が主張するような中央銀行の閉鎖や通貨のドル化など、急進的な措置によって事態は変わるのか、という問いかけには、「一夜漬けの金融政策では、この国の財政を健全化することはできない」と指摘した。
また社説は、アルゼンチンの失敗の核心は「経済成長の欠如」にあると断じ、今後をこう読む。「人々は、さらなる福祉の充実を求めている。しかしそれを優先すれば、経済成長は後回しになる。ミレイ氏が闘いたいのは、この社会主義、国家主義、集団主義なのだ。彼の解決策がどう転ぶか、世界中が注目している。それは賑やかな、そしてひょっとすると恐ろしい物語になるかもしれない」
臓器売買、教育の有料化… 進展を見守るグローバルサウス
2022年に外貨不足に伴うデフォルトに陥ったスリランカは、経済危機という共通点からミレイ氏の政策に関心を寄せているようだ。英字紙デイリーニュースは2023年11月22日付紙面で「アルゼンチンの新たな時代」と題した社説を掲載した。
社説はミレイ氏に対し、「懸念」と「未知なるものへの関心」という、相反する印象を同時に抱いているようだ。
「ミレイ氏は、テレビ時代から奇人として知られる。心配なのは、彼が臓器売買の合法化や、アルゼンチンの二大貿易相手国であるブラジルと中国との関係断絶、10以上の省庁の閉鎖、公立学校の有料化などを口にしていることだ」と、まずは懸念点を挙げる。その一方で、「ミレイ氏はまだ53歳。政治家としては若く、アルゼンチンが直面する多くの問題に取り組むのに十分な時間がある」と、期待も寄せる。
また、「アルゼンチンは危機に立たされている」というミレイ氏の言葉を引用した上で、「この危機的状況を招いたのは、長年にわたる支出超過、保護貿易主義、息の詰まるような債務、通貨の増刷などの政策だ。アルゼンチンはこうした政策から脱却する必要がある」と指摘。そのうえで、「多くの国民が享受している無償教育の有料化や、自国通貨ペソの廃止などが本当に実現可能なのか、疑問視する人も多い」と、その道のりが険しいとの見方を示した。
「間違いなく言えることは、アルゼンチンが今、実力が未知数の、急進的な考え方の指導者と共に、新しい時代に突入しようとしていることだ。同様の課題を抱えるグローバルサウスの国々は、その行方を強い関心をもって見つめている」
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インド紙の言う「システムの爆破」は起きるのだろうか。そしてそれは、経済正常化への起爆剤になるだろうか。アルゼンチンは、グローバルサウスを成すG20のメンバー国でもある。今後の展開は、国際情勢にも影響を与えそうだ。
(原文)
インド:
スリランカ:
https://www.dailynews.lk/2023/11/22/editorial/247642/new-era-for-argentina/