コロナ禍中にタイ国軍が軍事演習を強行
日米から100人以上受け入れた責任を地元英字紙が糾弾
- 2020/8/15
新型コロナウイルスの感染拡大に収束の兆しがまったく見えないなか、社会生活や経済活動を少しずつ再開する動きが相次いでいる。タイでは、合同軍事演習のためにアメリカと日本から、軍と自衛隊関係者が入国した。8月5日付のタイの英字紙バンコクポストは、社説でこの問題をとり上げた。
「差し迫った危機」がないのに
「戦争が近く起きるのだろうか。または、国家の領土に差し迫った危機があると言うのだろうか。今、明らかにそのような安全保障上の懸念はない。だからこそ、この新型コロナウイルス感染拡大のただなかに、タイ国軍が、米国と日本から100人以上を招いて軍事演習を行う意味が理解できない」
社説は冒頭から、今回の国軍の合同軍事演習について、その必要性を厳しく問うている。
タイでは、新規感染者の確認が6月以降なかったことから、特別な許可がない限りは封鎖していた国境を段階的に開くことを検討していた。しかし、7月半ばにエジプト人の軍人とスーダン人外交官の家族の感染が判明したことで、外国人の入国をまだ許すべきではないという国民感情が高まっている。
社説は、「外国から戻ってくるタイ人にさえ、健康証明など感染拡大防止に必要な措置を求めている。国軍が、今回、この緊急ではないミッションのために外国人兵士たちの入国を許したことは、タイの人々がこれまで感染予防のために払ってきた犠牲をふみにじる措置だ。国民感情を逆なでするものであるばかりでなく、国軍が自分たちのことを最優先にし、社会の現実を無視している、という批判を浴びても仕方がない」と、厳しい言葉で批判する。
また、アメリカと日本については、このように記す。「アメリカには世界最多の感染確認者がおり、今も日に4万人以上が新たに感染しているという事実は、国軍関係者の耳に届いているのだろうか。日本でも、第二波とみられる感染拡大が起きており、首都東京の新規感染者数は増加している。なかでも、米軍が駐留している沖縄は、独自に非常事態宣言を出すほど感染者が急増している。在沖縄の米軍基地内では、200人以上の感染者がいるという。これらの状況を考えあわせたとき、軍事演習の延期が妥当な判断だが、国軍はそうしなかった」
無責任な軍に、国民の怒り
社説は、グアム駐留の米軍兵士71人が8月3日、タイのウタパオ空軍基地に到着したと伝えている。彼らは「代替隔離施設」であるバンコク中心部の高級ホテル「コンラッド」に移送された。さらに、同日夜には、日本から32人の自衛隊員が到着し、トンブリの別の代替隔離施設に移送されたという。
社説は、「国軍は、もし、感染防止に失敗したときの責任をどうとるのか。新たな感染クラスターが発生した場合には、より厳しい行動制限が必要になり、経済にも打撃を与えるだろう。その責任をどうとるつもりなのだろうか」と、問いかける。
たたみかけるように国軍の責任を問う社説には、感染予防のために厳しい行動制限を強いられてきたタイ国民の憤りが映し出される。「外国軍を感染拡大のさなかに迎え入れることのリスクは高く、国軍の責任能力を超える」。在沖縄米軍基地での感染拡大をみても、それは十分に共感できる思いだ。
(原文: https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1962919/no-need-for-foreign-troops)