タイ最大のスラムの立ち退き問題
再開発計画に揺れる人々の行方

  • 2019/8/26

古くて新しい再開発計画

 バンコクには2,067カ所のスラムがあり、210万3,098万人が暮らす(2017年10月末日付、バンコク都庁調べ)。バンコクの5人に1人がスラムで暮らしている計算だ。

 43の地区から成る国内最大のクロントイ・スラムの立ち退き問題は、古くて新しい。発端は、タイ運輸省港湾局が2004年に国営地の再開発計画を策定したことに遡る。その後、政治が不安定でしばらく動きがなかったが、2012年に港湾局が住民代表を招集して再開発計画を説明。2014年にプラユット暫定政権が誕生後は、現在まで約10回にわたり説明会が開かれている。

港湾局が作成しているチラシ。クロントイ・スラムの現在の写真と、立ち退いた住民に提供される予定の高層アパートの予想図が、「スマ―ト コミュニティ」の言葉と共に掲載されている(筆者提供)

 もっとも、軍事政権下では政府批判や政治活動が厳しく制限され、住民やNGO関係者は「銃の前に無力」だったため、反対を唱えることはできず、意見交換も行われなかった。

 さらに、今年1月上旬には地元メディアが「港湾局、スラムの住民のために高層アパ―トを建設」という見出しとともに、立ち退き問題を大きく報道。移転先となる25階建て高層アパ―トの完成予想図や建設予定地も写真入りで掲載した。その後、プラユット首相もクロントイ・スラムを訪れ、立ち退きを求める圧力は着実に高まっていた。

固定ページ:
1

2

3 4

関連記事

ランキング

  1. (c) 米屋こうじ バングラデシュの首都ダッカ郊外の街で迷い込んだ市場の風景。明るいライトで照…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3.  ミャンマーで2021年2月にクーデターが発生して丸3年が経過しました。今も全土で数多くの戦闘が行わ…
  4.  2024年1月13日に行われた台湾総統選では、与党民進党の頼清徳候補(現副総統)が得票率40%で当…
  5.  台湾で2024年1月13日に総統選挙が行われ、親米派である蔡英文路線の継承を掲げる頼清徳氏(民進党…

ピックアップ記事

  1.  軍事クーデター後のミャンマーで撮影されたドキュメンタリー映画『夜明けへの道』が、4月27日より全国…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
ページ上部へ戻る