タイ最大のスラムの立ち退き問題
再開発計画に揺れる人々の行方

  • 2019/8/26

課題残るも進む既成事実化

 とはいえ、立ち退きにあたっては、まだ多くの課題がある。例えば、25階建ての高層アパートは大家族で暮らすには狭い上、行商や屋台などの商いができないため、収入を得られない。また、立ち退きの補償を受けられるのは家の登記証を持つ者だけであり、スラムで部屋を賃貸している者は行き場を失う。さらに、郊外へ移転すると、今の仕事を失うか、通勤費を負担しなければならない。アパートに入れば、隣近所とドアで隔たれ顔を合わせる頻度が減るため、従来の水平な相互扶助のコミュニティー意識が崩壊し、「スラムの高層化」も危惧される。

クロントイ港に隣接する運河沿いに広がるクロントイ・スラム。再開発にともない、この辺り一帯が立ち退きを迫られているが、生活の再建にあたっては多くの課題があり、簡単な問題ではない(筆者撮影)

 クロントイ・スラムの中心部で住民委員委員会の代表をしている男性は、「港湾局の情報が十分ではなく、住民から何か尋ねられても答えられない」と困惑している。政府と港湾局の動きをマスコミが都度、報道するため、クロントイ・スラムの再開発と立ち退き問題が既成事実化しつつある格好だ。

 スラムで活動するわれわれNGOは、貧困下で築かれてきたコミュニティーが今後も続き、人々が安定した仕事を得て、より良い環境で安心して暮らせることを強く望んでいる。

ページ:
1 2 3

4

関連記事

 

ランキング

  1.  2026年8月、ネパール中部を大規模な土石流が襲いました。ヒマラヤでは気候変動に伴う氷河の融解…
  2.  2026年8月26日、中国とネパールの国境地帯を大規模な氷河土石流が襲いました。気候変動による…
  3.  第2次トランプ政権の発足後、アメリカは国際開発庁(USAID)を廃止し、対外援助を大幅に削減し…
  4.  ミャンマー西部ラカイン州に多く暮らす少数派イスラム教徒ロヒンギャ。長年にわたり市民権を認められ…

ピックアップ記事

  1.  2017年8月25日、ミャンマー西部ラカイン州でロヒンギャの武装勢力が国境警察施設を襲撃したことを…
  2.  2016年7月1日にバングラデシュの首都ダッカで発生したホーリー・アーティザン・ベーカリー襲撃テロ…
  3.  2016年7月1日夜、バングラデシュの首都ダッカで、日本人7人を含む多くの命が奪われたホーリー…
  4.   ミャンマーの街角や人々の暮らしを伝える「Yangonかるた」と、その発想に触発されて誕生した…
  5.  30年前、内戦直後のカンボジアで、戦火をくぐり抜けて残った数本の在来種の胡椒の木を大切に育てる老農…
ページ上部へ戻る