タイ洞窟救出から1年、無国籍問題はいま
「存在しない」人々を生み出す新たな構造

  • 2019/7/14

浮かび上がる新たな構造

国境の街、メソトのムーイ川に架かる友好橋の下流の国境を超えるミャンマー人(筆者撮影)

 新たな問題も生まれている。近年、急速に少子高齢化が進み、慢性的な労働力不足に直面しているタイに、めぼしい産業がなく雇用不足が深刻なミャンマーやカンボジア、ラオスなどの近隣国から仕事を求める人々が流入し続けているのだ。

 首都バンコクで最大と言われる10万人が暮らすクロントイ・スラムも以前とは様変わりし、今はタイ人の貧困層だけではなく、国境を越えてやってきた移民労働者たちも多く暮らす地区となった。合法と非合法を合わせ、国内に約580万人いると言われる彼らの子どもたちの国籍問題が顕在化しつつある。

バンコク最大のクロントイ・スラムのカンボジア人移民労働者が暮らす家(筆者撮影)

 「自分を証明するものがない」「生命体としては生きていても、人間としては存在していないのと同じ」――。国籍のない者たちから聞こえてくる悲痛な叫びは、彼らの民族としての尊厳や文化的アイデンティーが失われつつあることへの怒りや諦めに満ちている。

 移民労働者の問題に直面しているタイで、1年前の洞窟からの救出劇を機に新たに世界から注目され、白日にさらされた無国籍問題が、一日も早く解決に向けて動き出すことを願わずにはいられない。

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