アフガンとロシアの凍結資産は誰のものか
没収と流用を巡る議論が問う「正義」と「所有」のバランス

  • 2022/5/28

揺らぐ国際金融秩序と法の支配

 こうした米国内の議論に関して、欧州連合(EU)の本部があるブリュッセルに本拠を置くシンクタンクのブリューゲルは、5月16日付の論考で以下の点を挙げ、分析している。

 ・ロシア中銀資産はすでに凍結されているため、ロシアが自由に兵器購入などに使えない。そのため、没収しても戦局に影響は及ぼさず、戦略的な意味がない。

 ・ロシアは凍結された資産を取り戻したいため、将来的な和平交渉の際のカードに使える。没収すれば、その札が失われる。

 ・ウクライナ支援で団結する陣営に、没収をめぐり意見の相違が生まれ、団結にひびが入りかねない。

 ・国際金融体制の安定を脅かす恐れがある。

 ・交戦相手ではないロシア資産を没収すれば、反ロシア陣営の道徳的優位が失われる恐れがある。

「正義」と資本主義の「所有」概念のバランスが今、問われている。(出典: Pexels

 この分析をアフガニスタンのケースに援用すれば、タリバンとの交渉材料であるアフガン中銀資産を没収・流用することは賢明ではないという見方も可能になろう。たとえ米国がタリバンを交戦相手とみなしてそのような行為を正当化したとしても、米国主導の国際金融秩序や法の支配を自ら揺るがすことには疑問符が付く。

 何より、アフガン中銀の資産はアフガン人のものである。アフガン国民を抑圧し、地域覇権の拡張を目論む中国と結託するタリバンを利することになる資産の返還は極めて困難な決断だが、大局的に見れば、アフガン経済が安定することで、逆説的に、アフガン国民の生活が安定し、彼らが反タリバン闘争に戻れる可能性もある。米国には長期的な視野に立った決断が求められる。

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