シンガポールの英字紙がコロナ禍の報道を議論
信頼できるジャーナリズムの役割とは
- 2020/10/10
9月28日は、ワールド・ニュースデイだった。これは、カナダ・ジャーナリズム財団と世界編集者フォーラムなどが主催する国際的なイベントで、例年、世界150以上の報道機関が参加者している。シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは、「感染拡大の中のジャーナリズム」と題して同イベントに登壇。さらに、同日付の社説で議論のテーマについて論じた。
困難の中に生まれた信頼関係
社説はまず、今年のワールド・ニュースデイの意義について「単にプロフェッショナルのジャーナリストたちが一堂に会したのみならず、新型コロナウイルスとは何だったのか、記者、編集者、読者や視聴者、そのほかジャーナリズムにかかわるすべての人たちが共に振り返るきっかけになった」と振り返る。さらに、「多くの報道機関が経営面への影響に苦しんでいる中、コロナ禍の報道を通じてニュースの受け手との間に新たな信頼関係が生まれた」として、困難な中にも前向きな変化があったことを評価する。
その上で社説は、米国に本部を置くメディアソフトウェアとサービスプロバイダー会社であるCisionが発表した2020年版のメディアリポートを紹介する。北米、南米、欧州、アジアの15カ国、3000人以上のメディアのプロたちを対象に実施されたこの調査によると、報道において彼らが最も重視しているのは、「正確さ」を担保することだという。今年で2回目になるこの調査に対し、半数以上のジャーナリストたちが「記事の正確さは、売上や特ダネか否かより重要だ」と答えたという。社説は、「コロナ禍により、報道の正確さや信頼度の高さ、そして迅速性が従来以上に求められている」と、分析する。
足元の報道の重要性
また社説は、「コロナ禍によって、市民はかつてないほど地元メディアを頼りにするようになった」と、指摘する。実際、新型コロナウイルスの感染予防策に関し、最も必要とされているのは、身近な情報だ。社説は「地元の読者や視聴者に支持されるメディアほど、地域の情報をより手厚く報じるようになり、大きな価値を生み出している」と分析する一方、「小さな報道機関はリソースが足りず、しっかりした地元のニュースを発信できない “情報砂漠” と言うべき地域ができていたのも否定できない」と問題提起も行っている。
報道機関と受け手の距離感が「コロナ関連の情報」を通じて近づき、親近感の醸成や、より正確で迅速なニュースを目指すという報道機関のモチベーション向上につながっているーー。そんな前向きな分析の一方で、社説は「フェイクニュース」の拡大に警戒感を示している。
「フェイクニュースは、正確な情報よりも速く、広く伝わってしまう。人々は、自分たちが信じたいと思う情報を受け入れる傾向にある。不都合な事実に対抗する “もうひとつの事実” という触れ込みの情報は、新型コロナウイルスの感染を抑制し、ポスト・コロナの未来にどう取り組んでいくべきかという議論を妨げる」と、指摘。その上で「ワールド・ニュースデイではこのような点が議論される」としている。
世界の多くの国が、いまだ感染拡大の状態にある。「ウィズコロナ」という言葉の通り、新しい生活様式で感染症とともに生き抜く時代になった。その中で、報道の果たす役割はむしろ「原点」に戻ったのかもしれない。「正確さ、迅速さ、そして信頼性」。この社説が示す報道のキーワードは、極めて伝統的な報道の原点であることを胸に刻みたい。
(原文: https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/the-role-of-credible-news-amid-a-crisis)