「ケム・ソカー派には明るい未来がある」
カンボジア、野党勢力の分断工作

  • 2019/11/22

 カンボジアのプノンペン地裁は11月初め、自宅軟禁下にあった野党勢力「カンボジア救国党」の前党首、ケム・ソカー氏に対し、カンボジア国内を移動する自由を認めた。ただ、政治活動への関与などは許されておらず、「部分的な自由」しか認めていない。

 救国党党首だったケム・ソカー氏が、「外国(米国)と共謀して国家転覆を謀った」として自宅で逮捕されたのは2017年9月だった。カンボジアは当時、2018年7月に国民議会選挙(総選挙)を控えており、フン・セン首相率いる与党「カンボジア人民党」政権による野党の弾圧だ、と国際的な非難を浴びた。

 しかし与党政権は、批判にひるむことなく、野党勢力の抑圧を続けた。2017年11月には、最高裁判所が、党首の逮捕を理由として救国党の解党を命じ、100人を超える同党主要党員たちには5年間の政治活動の禁止を命じた。救国党はカンボジア国内には「存在しない」政党となり、翌年の総選挙では、最大与党・人民党が125議席すべてを独占するという事態になった。

 ケム・ソカー氏に「国内移動の自由」が与えられたのは、救国党の創設者であるサム・レンシー氏が、「国内外の野党勢力を結集する」と宣言し、滞在先の外国からの帰国を試みたが、とん挫した直後のことだった。

  カンボジアの英字紙「クメールタイムズ」は、社説でこの問題を採り上げ、「国内で軟禁下にあるケム・ソカー氏と、国外にいるサム・レンシー氏の溝は深まっている」と、執拗に強調する。フン・セン政権の意向を反映したとみられる内容で、今後、野党勢力の分断が、与党側の戦略の軸になっていくことを伺わせる。

カンボジア政府は11月初め、自宅軟禁下にあった野党勢力「カンボジア救国党」の前党首、ケム・ソカー氏に対し、カンボジア国内を移動する自由を認めた。同氏は、三上正裕駐カンボジア日本大使(写真左)をはじめ、各国の要人を訪ねた (c) ロイター/アフロ (2019年11月13日撮影)

2人の指導者の「溝」を強調

 そもそも、ケム・ソカー氏とサム・レンシー氏は、それぞれ別の野党を率いていた。しかし、「与党勢力を上回るためには団結が必要」だとして、2013年の総選挙を前に合流し、「カンボジア救国党」を結成したのだ。サム・レンシー氏が党首、ケム・ソカー氏が副党首という肩書だった。

 これまでにも、二人の間にはたびたび方針の違いがあったと伝えられてきたが、今回のクメールタイムズの社説は、「二人の違い」をことさらに強調する。たとえば、ケム・ソカー氏の娘の言葉を引用するとして「サム・レンシー氏の帰国宣言は、単なるポーズだ」といういう発言を伝え、旧救国党内の「ケム・ソカー派」は、サム・レンシー氏による国家転覆の企てには関与していない、と断じている。

 その上で、ケム・ソカー氏を露骨に持ち上げる。「ケム・ソカー氏は、裁判所の判断に従って、責任感ある行動をした。政治家としての勇気、そして評価は、臆病なポピュリストであるサム・レンシー氏に比べてずっと高い。ケム・ソカー氏は、サム・レンシー氏よりもずっと成熟した政治家であることを証明した」

突きつけられた条件

 さらに、ケム・ソカー派に対しては、「サム・レンシー派には近づくな」として、次のように繰り返す。「野党勢力の未来を救うために、ケム・ソカー派は、サム・レンシー氏の暴力的な人民蜂起や、カラー革命による政権転覆の企てに関与してはならない。他国の例をみても、非民主的な、暴力による政権交代は、長期にわたる政情不安や社会不安を生み出し、国民を苦しめている」。また、「ケム・ソカー氏は、長期的な政治的解決のために、時間をかけて野党の再建に取り組み、2022年の地方選挙、2023年の総選挙に備えるべきである」とも主張し、次のように結論づける。

 「ケム・ソカー氏は、彼自身の信念と価値観に基づいた政治的アイデンティティーを打ち立てるべきだ。時はケム・ソカー氏に味方している。サム・レンシー氏の経験からよく学び、平和的で民主的な、別の道を選ぶべきである。もし彼がサム・レンシー氏と行動を共にするならば、未来はない」。

 まるで、脅すかのような表現である。ケム・ソカー氏は、国内移動の自由が認められた後、欧米や日本の大使と相次いで面会した。与党側から突き付けられた「条件」に、彼がどう応じていくのか、注目される。

(原文:https://www.khmertimeskh.com/50658597/kem-sokhas-faction-has-brighter-future/)

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