イギリス、欧州連合離脱に残る課題
パキスタン英字紙に見る連邦加盟国の受け止め方

  • 2020/2/14

イギリスは、今年1月31日をもって欧州連合(EU)を離脱した。2016年の国民投票で離脱賛成が過半数を占めたことからその準備が始まり、3度の延期を経て離脱が実施された。イギリス連邦の加盟国でもあるパキスタンの新聞Dawnは、2月2日付けの社説でこのテーマを採り上げた。

ベルギー・ブリュッセルのEU本部から1月31日、英国国旗が取り外された (c) 代表撮影/ロイター/アフロ

新しい関係性の始まりだが…

 社説は、イギリスのEU離脱について、「一つの時代の終わりであり、新しい関係性の始まりだ」と指摘する一方で、「離脱賛成が多数を占めた2016年の国民投票の結果は、多くの人々に不安を抱かせた」と、している。さらに、EUの本部があるブリュッセルの2月1日午前0時、離脱の瞬間の様子を次のように描写した。「その瞬間から、英国の外交官はEU加盟国内の議論に加わることは許されず、世界各地にいる139のEU代表者のネットワークにアクセスを許されず、EUの地図は、イギリスがグレーに塗られてアップデートされた」

 そんな描写とは対照的に、実際には「即時に変化が起きるわけではない。今年の12月31日まで、イギリスはさまざまなEUのルールを維持する」と、社説は書く。例えば、イギリス国民は、すでにEU市民ではないにもかかわらず、12月31日までEU域内を自由に移動ができる。

 問題はその後だ、と社説は指摘する。EUサイドからは、残り11カ月ですべてのシステムを移行することは難しい、との見方が早くも出始めている。イギリスのボリス・ジョンソン首相は、「絶対に完全離脱する」と強調しているものの、製造業界からは「そのプロセスを明確にせよ」と迫られているという。

 

ジョンソン政権のかじ取りに注目

 もし、2020年12月31日までにEU側とイギリスの間で話し合いがまとまらない場合は、いわゆる「合意なき離脱」という状態になる。これは、EUとイギリスが合意形成できないままイギリスの完全離脱が実施されることで、イギリスは単なる「非EU国」となり、世界中の非EU国と同等の扱いを受けるというものだ。社説は、「もし、合意なき離脱となった場合、食品の値上げや医薬品などについて混乱が生じるだろう」との見方を示す。

 さらに社説によると、EUの指導者たちは、「離脱後はEU加盟国としての利益を受けられなくなる」と、イギリスに繰り返し警告しているという。EU委員会の委員長は、「今後、EUとどのような距離感を保つかは、イギリス次第だ」と、発言。また、ドイツのメルケル首相は、「もし、イギリスが欧州統一市場という考え方からも距離を置くのであれば、加盟国と非加盟国の違いは大きくならざるを得ない」と、発言している。

 この社説は、イギリスのEU離脱について独自の見解を示してはいないが、全体として、危機感や不安感を強調する内容となっている。イギリスの離脱が、イギリス連邦加盟国に対し、特に経済活動の面で影響を及ぼす可能性があるからだ。社説は、「ジョンソン首相は、イギリス国民に離脱が最善の決定であったということを示さなくてはならない」と、締めくくっている。イギリス国民とともに、イギリス連邦加盟国もまた、ジョンソン政権の今後のかじ取りを大いに注目しているようだ。

 

(原文:https://www.dawn.com/news/1532005)

 

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