ロシアの弱体化できな臭さを増す中国の覇権構想
中ロ関係の変化を受けて進む極東協力と西向戦略の狙いとは

  • 2023/5/30

「運命共同体」の先に見据える大戦

 そして、注目されるもう一つの動きが、「西向戦略」だ。中国は今年5月、広島G7サミットと同じタイミングで、中国・西安で「第一回中国・中央アジアサミット」を開催し、この席上で、中央アジア五カ国(カザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン)とのパートナーシップ関係をメカニズム化し、260億ドル(約3兆6400億円)相当の金融支援と無償援助を行うと表明した。調印された「西安宣言」も、単に経済・貿易上の成果というだけでなく、地政学的、そして資源戦略的に重要な意味がある。

 ここで注目されるのは、今回参加した中央アジア五カ国が、いずれも旧ソ連国で、ソ連が崩壊し独立した後も、ロシアから強い庇護と支配を含む影響力を受けていたということである。そうした国々が、中国が率いる人類運命共同体の構築に参画し、国家安全上も強いパートナーシップを結ぶことを西安宣言でうたったのだ。

 中国は、2013年頃から中央アジアの資源に目を向けた「西向戦略」を開始し、一帯一路構想を利用して、中央アジアに対する影響力の強化に腐心してきた。しかし、ロシアのプーチン大統領はそれを快く思っていなかった。ロシアがユーラシア経済連合の設立を主導したのも、実のところは一帯一路構想に対抗し、中国に好き勝手をさせないための策でもあった。この時は、習近平国家主席がプーチン大統領の面子を立てながら、中ロで新たな朋友経済圏を形成しようという姿勢に譲歩する。しかし、ウクライナ戦争に苦戦するロシアの国力が弱体化するに従い、ロシアの中央アジアへの影響にも隙が生まれ、そこに米国が入り込もうとする動きが出てきたことから、米国を阻止すべく、ロシアは中央アジアのパトロンの座を中国に譲る決断をしたのだろう。もし、ロシアの国力が弱体化していなかったら、「中国・中央アジアサミット」も、「中国・ロシア・中央アジアサミット」という形で開催されたに違いない。

中国・中央アジアサミットに参加した五カ国の首脳陣と笑顔を見せる習近平中国国家主席(2023年5月19日、西安で撮影)(c) 新華社/アフロ


 中国が中央アジアとの関係を「運命共同体」と表現し、国家安全協力まで盛り込んだ「西安宣言」の調印にこぎつけたことは、中ロ極東協力と同じように、地政学的および軍事的な意義が大きい。中央アジアを押さえれば、万が一にも米中戦争が勃発し、海上封鎖をされるようなことになったとしても、中東の石油やロシアの資源・食糧、そして欧州連合(EU)の消費財を陸路で輸送できるからだ。
 こう考えると、中ロの極東協力の加速も、中国・中央アジア協力のメカニズム化も、どちらもロシア・ウクライナ戦争によって中国が受けた恩恵であり、中ロ関係の劇的な転換を象徴する出来事だと言える。これらは、今のところ経済的な観点からのみ大々的に報じられているが、実は、新たな国際秩序を構築し、その主導者の座に中国が君臨するという、中国が目指す世界を実現するプロセス上に米国との戦争があり得ることを視野に入れた、非常にきな臭い動きであると、指摘しておきたい。

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