ジェンダー平等に向かうアジア諸国の今
国際女性デーに振り返る、男性優位社会からの脱却

  • 2023/4/15

 アジア各紙は3月、国際女性デーにあたり、ジェンダーの平等や女性の権利について社説で取り上げた。

(c) illust AC/よっと

アジアのジェンダー先進国にもガラスの天井

 シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは3月8日、「ジェンダー・インクルーシブな世界を祝福する」と題する社説を掲載した。

 シンガポールにおいて、ジェンダー平等に関する指数は改善しつつある。社説によると、テクノロジー分野の労働者に占める女性の割合は41%で、世界平均の28%を大きく上回る。また、大手上場企業の取締役会における女性取締役の割合は、2021年の23%から、2022年には36%まで増えており、「過去最高」だったという。社説はこうした変化を歓迎しつつも、「取締役会の理想の割合は40~60%」と述べ、まだ改善の余地がある、としている。

 また、社会全体のジェンダー平等に対する取り組みとして、2022年に発表された「シンガポール女性進出白書」を引用し、政策についても言及する。例えば、柔軟な勤務形態、介護者への支援強化、保育施設の充実、育児休暇の取得などに関する政策が進んだ、としている。また、2023年度予算では子育て世帯への経済的支援が強化されたうえ、父親の育児休暇取得促進なども盛り込まれたという。

 しかし、シンガポールの人々のジェンダーに対する考え方には「かなり改善が必要な点がある」、と社説は指摘する。「家庭内の稼ぎ手は男性であることが多く、女性は家庭内の子育てや介護に従事する傾向が強い。職場でも、女性はガラスの天井に悩まされている。こうした考え方は、排除されるべきだ」。

女性の大統領に、女性のボディガード

 インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、3月17日付で「男性だけの仕事ではない。女性の大統領が女性のボディガードを持つべき理由」と題する社説を掲載した。

 インドの現大統領は、2022年に就任した女性のドラウパディ・ムルム氏だ。先住民族として初の、そして女性としては2人目の大統領だという。社説は同紙の記者がムルム大統領とのインタビューの中で、「女性のボディガードをつけることで、女性の能力について力強いメッセージを発信できる」と提案したことを採り上げた。

 社説によれば、インドの大統領のボディガードは徹底して「男性優位」であり、インド軍の中でも、例えば身長が180センチ以上の兵士でなければならないなど、植民地時代から続く要件があるという。社説は「こうした基準は、基本的に女性を排除するものであり、女性が軍艦や戦闘機に乗り込んだり、前線で部隊を指揮したりする時代においては非常に奇妙なことだ」と批判している。

 社説は、「いかなる分野においても、女性は平等に扱われるべきだ。大統領のボディガードは男性しかいないということは、女性にはその能力がないというメッセージになる。女性大統領が、女性のボディガードに囲まれて歩く姿は、そうした偏見を正してくれるだろう」と、指摘した。

                       *

 ジェンダーの平等は、どの社会でも長い時間をかけて取り組んでいる課題だ。シンガポール紙が指摘するように、女性労働者の割合といった数値だけで「達成した」と語れるものではなく、社会に根を張る一人ひとりの考え方が変わっていかなくてはならない。その変化は短期間では目に見えにくいかもしれないが、例えば女性が職業に就くことすら考えられなかった時代を思えば、社会は確実に変化している。変革を目指した勇気ある女性たち、そして彼女らの想いを支えた勇気ある男性たちの努力は、決して無駄ではない。人類の進歩に希望を抱きつつ、未だ変わらぬ不平等に苦しむ女性たちに連帯する心を持ちたい。

 

(原文)

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/celebrating-a-gender-inclusive-world

 

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/not-just-mans-job-why-our-woman-president-should-have-women-bodyguards/

 

関連記事

 

ランキング

  1.  政治的に不安定な国や地域に囲まれながらも、比較的安定した治安と政治を維持してきた中東の王国ヨルダン…
  2.  ジャーナリストの玉本英子さん(アジアプレス・インターナショナル)が10月26日、東京・青山で戦火の…
  3.  米大統領選挙と上下両院議員選挙の投開票を11月5日に控え、全米で深刻化している不法移民の地元コミュ…
  4.  米国・ニューヨークで国連総会が開催されている最中の9月25日早朝、中国の大陸間弾道ミサイル(ICB…

ピックアップ記事

  1.  ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロス…
  2.  「すべてを我慢して、ただ食って、寝て、排泄して・・・それで『生きている』って言えるのか?」  パ…
  3.  今秋11月5日に投開票が行われる米大統領選挙は、現職のジョー・バイデン大統領が撤退を表明し、波乱含…
  4.  かつて恵比寿の東京写真美術館で、毎年開催されていた「世界報道写真展」。その拠点となるオランダ・アム…
  5.  かつて恵比寿の東京写真美術館で、毎年開催されていた「世界報道写真展」。その2024年の受賞作品が4…
ページ上部へ戻る