日銀総裁人事にアジア諸国が注目する理由
期待される、日本の金融緩和の「終わりの始まり」
- 2023/3/25
日本政府は、4月8日に任期を迎える黒田東彦・日銀総裁の後任候補に、経済学者の植田和男氏を提示した。国内のみならず、国際経済にも大きな影響を与える日本経済のかじ取りを担う日銀総裁。世界では「サプライズ人事」とも報じられた。
円高による海外直接投資の後押しなるか
シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは、新たな日銀総裁候補の登場について、2月24日付紙面の社説で「日本の金融緩和策は続かない」と題して次のような書き出しから始まる社説を掲載した。
「植田氏の指名は、10年間にわたる日本の金融政策の実験にとって、“終わりの始まり”である。その影響は日本国内にとどまらないだろう」
社説はまず、黒田総裁の下で進められてきた金融緩和策の問題点について、「金利をゼロ近くまで引き下げ、デフレとのたたかいにフォーカスしてきた。長期債利回りの上限も0.25%に設定し、2022年に米国や他国の中央銀行が利上げを開始しても、その低い水準を維持した」としたうえで、「日銀は12月に上限を0.5%に引き上げたものの、今も金融緩和策は続いている」との見方を示した。さらに、「これが問題を起こしているのだ」と指摘した。
社説によれば、この金融緩和策によって、円が米ドルに対して急激に弱くなった結果、「2022年の主要通貨の中で最もパフォーマンスが悪くなった」という。また、日本のインフレ率は約4%と、過去41年間で最も高くなったことにも言及した。
そのうえで社説は、植田氏が現在の金融緩和策について慎重に見直しを進めるだろうと予測し、「日本は、遅かれ早かれ、金利の超緩和策から脱しなくてならないだろう」と見る。確かに、日本のインフレは、エネルギーや商品価格の高騰など、一時的な現象だと思われる外部要因によるところが大きい。だが、「日本にはいまだデフレマインドが蔓延している」と、社説は言う。さらに、賃金の引き上げや防衛費の増額を踏まえれば、インフレはさらに根深いものになる可能性があるという。
社説は、日本が金融緩和政策から脱すれば、円高が進み、「輸出競争力を維持するために自国通貨を切り下げざるを得ない」アジア諸国に対するプレッシャーを減らすことになる、と読み解く。また、円高は、日本企業が生産コストの低減を図るために東南アジアへ直接投資する動きへを後押しすると指摘し、「“異例の金融緩和政策”の終焉は、日本だけでなく、アジア地域にとってもプラスになる」と、主張する。
デフレ思考からの脱却も
ストレーツ・タイムズ紙からは、アジア諸国が日銀総裁人事に象徴される日本経済の動向に強い関心を持っている様子がうかがえる。実際、同紙は、植田氏の人事が発表された2月14日にも、東京発ロイター電の長文の記事を掲載し、今回の人事について「黒田総裁の10年にわたる金融政策の実験に歴史的な終わりを告げるものだ」「国民をデフレ思考から脱却させ、高金利政策に移行させる可能性がある」と、分析した。
世界が注目する日銀総裁人事には、日本の経済力の回復への期待が込められる。しかし、ストレーツ・タイムズ紙が分析するように、その要因が一時的な国際情勢に限らず、国内に根深く沈着したものであるとするならば、アジア諸国が望むような状態に戻るまでには、まだまだ時間が必要なのかもしれない。
(原文)
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/japan-s-easy-money-policy-may-not-last