パキスタンで食料不足が深刻化
社会調査によって格差問題の根深さが浮き彫りに
- 2021/6/9
パキスタンでこのほど実施された社会調査の結果、「食料が十分ではない」という人の割合が増えていることが明らかになった。この背景にある要因は新型コロナだけではないという。5月28日付のパキスタンの英字紙ドーンは、社説でこの問題を採り上げた。
より深刻な女性や子ども、貧困層
2019~2020年にパキスタンで実施された社会・生活スタンダード調査によると、「食料が十分ではないと強く感じる、または、まあまあ感じる」と答えた家庭は、100世帯のうち16.4世帯に上ることが分かった。同調査はパキスタンが新型コロナ対策の一環としてロックダウンに踏み切る数カ月前に行われたものだが、前年の同じ調査の15.9世帯を上回っているという。社説は「もし、ロックダウン後にこの調査が行われていれば、もっと陰鬱な結果が出ていただろう」と、指摘する。
特筆すべきは、バロチスタン州の結果だ。「バロチスタン州では、食料不足を訴えた割合が3割に上った。この背景には、気候変動が農作物に影響を与えている上、州による食料確保状況もまちまちであることを示している。実際、ここ数年にわたって断続的に起きる干ばつにより、バロチスタン州の人々は貧困に陥り、食料不足が深刻化した」
さらに社説は、食料不足とは、「食料が売られていない」ことにとどまらないと指摘し、次のように述べる。
「ここ2年の間に食料価格が高騰したことも、食料不足の原因となっている。同調査では回答者の詳しい状況までは分からないが、一般的にこうした食料不足は全世帯に平等に襲い掛かるのではなく、男性より女性や子どもたちに、より深刻な影響をもたらすことは明らかだ。さらに、貧困地区に住む人々は、他の地区の人々より食料不足の状態が長期化し、深刻化しがちであるのも事実だ。より良い収入を求めて都市部への出稼ぎ移住が起きるのも、そのためだ」
経済成長の光と影
社説が指摘するのは、こうした問題によって明らかになる地域格差であり、教育や保健、公的機関へのアクセスといった不平等の背景にある経済格差であり、ひいては人生の機会の不平等だ。
「最大多数の人が健康的な食べ物を入手できるように経済を成長させ、雇用を創出し、収入格差を縮小することは大切だ。しかし、現在は経済成長によって社会や経済の不公平が助長されるだけで、食料の安定供給にはつながっていない。今こそ人々に公平をもたらす経済成長や富の分配のための政策を考えなければならない」と、社説は訴える。
経済成長のスピードが速ければ速いほど、経済格差は拡大する。都市部と農村部、富裕層と貧困層――。それはしばしば、「光と影」にたとえられてきた。光が強ければ強いほど影も濃い、と。しかし、地球規模の環境問題や、新型コロナに代表される感染症の問題を体験している私たちは、きれいごとではなく、「みんなが安全」にならなければ一人一人の安全も確保されないことを、今回、身をもって知った。社説が紹介した調査は、必ずしも新型コロナを反映したものではないが、それだけに、格差問題の根深さを伝えている。
(原文:https://www.dawn.com/news/1626141/food-insecurity)