コロナ禍とインドネシアの民主主義
感染防止を名目にした権威主義の復活を地元紙が懸念

  • 2020/5/26

 新型コロナウイルスの感染者が2万1,000人を超え、シンガポールと並んで東南アジアで最悪の状況になったインドネシア。感染は抑制傾向にないが、経済状況の悪化も深刻だ。そんな中、コロナ禍のもとでインドネシアの民主主義が直面する問題について、英字紙ジャカルタ・ポストは、22年前にスハルト政権退陣を求める大規模デモが最高潮に達した日にあたる5月20日の社説でとりあげている。

インドネシアで2019年5月21日、再選を決めたジョコ・ウィドド大統領 (c) AP/アフロ

民主化が直面する課題とは

 「1998年5月20日、民主化を求める学生や運動家たちはジャカルタやその他主要都市の路上を埋めつくし、その翌日にスハルト政権が退陣したことに歓喜した。あの日、それから20年余り後に、世界規模の感染爆発がこの国の未熟な民主主義を脅かすことになろうとは、だれも想像しなかっただろう」

 この日の社説はこんな一文で始まる。22年前に崩壊したスハルト政権は、32年間にわたってインドネシアを支配し、開発独裁の手法で強権政治的な長期政権を築いたが、政治腐敗や汚職を招き、1998年5月に民主化運動によって辞任した。インドネシア民主化への道のりはこれを機に始まった。

  社説は、「あれから22年が経ち、私たちはようやくインドネシアに民主主義が定着するのではないかという期待を抱いていた。しかし今、外出規制などに縛られている私たちにとって、気になる傾向が見られる」と言う。社説が指摘するのは、「新型コロナウイルスの感染拡大防止の名目のもとに、政治指導者がその権威主義的な本質を発揮しようとしているのではないか」という懸念だ。

 現在のジョコ・ウィドド大統領は、2019年に再選された。社説は、「民主主義を抑圧する他国のポピュリスト政権とは確かに違う道を選んでいる」と、一定の評価をする。その上で、そんなウィドド政権も、新型コロナウイルスの拡大によって経済が多大な影響を受け、国の医療体制が深刻なダメージを受けるようになるにつれ、民主主義の基本を弱体化するような手法をとるようになっているとの見方を示す。

言論抑圧も懸念

 「民主主義を逸脱する行為」の例として社説が挙げたのは、4月初めに発令された緊急事態政令だ。同政令では、財政赤字が法で定められたGDPの3%を上回ることを認めるだけでなく、新型コロナウイルス感染拡大防止策に関する歳出を命じた公務員がどのような刑事訴追も免れることを認めている。社説は、国民に十分な説明がなされないままにこうした政令が施行されることに懸念を示し、「スハルト政権の新秩序体制下でも、説明責任が果たされていなかった」と、警告する。

 さらに社説は、自由な言論が抑圧されつつあることも指摘する。実際、4月下旬には研究者のラビオ・パトラ氏が政府の政策を批判するツイートを発信し、オピニオン記事を書いた後で警察に連行された。「最近では、コロナウイルスとは関係のない問題に中央政府が踏み込む事例が増えている。政令17号(2020年)では、大統領に対し、公務員の昇進、異動、解雇に関する全権限を認めることが定められた」と、指摘する。

 民主化をめぐってさまざまなたたかいを経験してきたインドネシア。社説は、「私たちは今日まで、民主主義は、クーデターかポピュリスト的な政治指導者、あるいは共産主義者による支配によって死に絶えると信じていた。しかし今日、新型コロナウイルスの感染が拡大し続ける中、強権主義的な政権はその本能をむき出しにしつつあり、民主主義は沈黙と暗闇の中に陥ってしまいかねない」と、強い懸念を示す。

 こうした懸念は、民主主義を掲げる国々でも議論されているところだ。新型コロナウイルスは、私たちに自らが生きる社会のシステムについて「検証」する機会を与えてくれているのかもしれない。

(原文:https://www.thejakartapost.com/academia/2020/05/20/democracy-in-time-of-corona.html)

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