ワクチンをめぐり政府不信が高まるフィリピン
1年経っても出口の見えない新型コロナとの闘い
- 2021/2/24
世界の国々で新型コロナウイルスの感染拡大が始まって1年が経過した。しかし、1年後に事態がさらに悪化しているということを誰が想像できただろうか。2月5日付のフィリピンの英字紙フィリピンインクワイアラーは、社説でこの問題を採り上げた。
重なる失策
フィリピンの2月上旬現在の感染者数は、累計で約54万人。死者は1万人を超えている。そして1日あたりの新規感染者は、ピーク時よりは減ったとはいえ、現在も1000人を超えている。他の多くの国と同様に、フィリピンも、ワクチン接種が始まったとはいえ感染拡大が収束する目途が立ったとは言えない状況で、苦難が続いている。
「フィリピンで初めて新型コロナの感染者が確認されたのは、2020年1月30日のことだった。中国・武漢から旅行してきた38歳の女性だった。2月1日、初めての死者が出た。この女性とともに武漢からやって来た44歳の男性だった。それから370日が過ぎた。これまでに1万4393人の医療関係者がウイルスに感染した。うち83人が亡くなり、303人が治療中である」
オーストラリアのシンクタンクが作成した新型コロナ対策の世界ランキングにおいて、フィリピンは98カ国中79位だったと社説は紹介する。国別の感染者数や死者数、そして検査数などをもとに算出されたこのランキングについて、社説は次のように指摘する。
「医療体制が整った他の国とフィリピンを比べるのは不公平だと保健省の次官が指摘しているが、ランキングの上位に入っている国々は必ずしも先進国ばかりではない。ベトナムは2位、タイやスリランカもベスト10に入っており、この主張が誤りであることは明らかだ」
その上で社説は、フィリピンがコロナ対策について遅れをとっている要因として、政治の失策を挙げる。
「2020年の1年間、ドゥテルテ大統領は新型コロナに関する無知をさらけ出し、誤った情報を拡散した。彼は、消毒薬がない人はマスクをガソリンで洗えばいい、と発言したり、3月に都市封鎖が実施されると、警察官と兵士に路上をパトロールさせ、公共交通機関が止まってやむを得ず歩いていた人たち逮捕したり、罰金を課したりして乱暴に扱った。コロナ危機を利用して軍事訓練を行ったようなものだ」
医療危機というより、政治危機
さらに社説は、コロナ禍がもたらした経済への厳しい影響を指摘する。
「都市封鎖によって、多くの中小零細企業が倒産し、数百万人の失業者が生まれた。2020年の我が国の経済成長率は、1947年以来で最も悪いマイナス9.5%になるとみられている。これは東南アジア諸国の中でも最悪の下落率だ」
また、昨年の3月から感染検査の重要性が指摘されていたにも関わらず、ドゥテルテ大統領がそれを認識したのは12月に入ってからだったと指摘し、認識の甘さを批判する。
その上で社説は、2020年9月から10月にかけて大統領の警護隊員が中国シノファーム製のワクチンを密輸入し、接種していたことを挙げ、「国民の信頼を失うような事件だ」と糾弾する。このワクチンがフィリピンでは承認されていなかったため、「ルール違反だ」と批判を浴びたのだ。その後、政府がシノファームではなく、別の中国製のワクチンを推奨したことについて、社説は「国際的な信頼度が低いワクチンを導入することになった結果、多くのフィリピン国民がワクチン接種に消極的になってしまった。ワクチン接種が遅れれば遅れるほど、経済回復も遅くなる」と嘆き、次のように訴える。
「問題解決の第一歩は、まずここに問題があることを認めることだ。フィリピンは、いまだ出口の見えない闇の中にいる」
長い都市封鎖や行動制限、ワクチン接種の遅れ、重なる政治判断のミス。フィリピンや日本の状況を見ていると、新型コロナウイルスは、今や、医療危機というより、政治危機と言えるかもしれない。
(原文: https://opinion.inquirer.net/137499/one-wrenching-year-later)