パキスタンでコロナが生む憎悪の連鎖を警戒
一致団結を呼びかける地元英字紙

  • 2020/5/11

 国連のアントニオ・グテーレス事務総長は5月8日、新型コロナウイルスの世界的な流行が「津波のような憎悪と外国人嫌悪」を引き起こしている、として警鐘を鳴らした。パキスタンの英字紙ドーンは、この言葉を社説で引用し、「パンデミックは一致団結のチャンスだ」と主張している。

パキスタンのカイバル・パクトゥンクワ州チトラルの子どもたち。同国では、いまだ新型コロナウイルスの感染拡大が広がり続け、収束の目途が立っていない (c) Aa Dil / Pexels

憎しみの根は以前から

 パキスタン国内で確認されている感染者は5月10日現在、3万人以上に上り、死者は600人を超えている。感染者が抑制される傾向にはないが、カーン首相は5月7日、感染予防のためのロックダウンを9日から段階的に解除し始めると発表した。3月下旬に始まったロックダウンは実効性が低いとの報道もあり、カーン首相は「感染がまだ増加している最中であることは認識しているが、封鎖がこれ以上続けば、貧困層が暮らしていけないため解除する」と述べている。

 社説は、こうした状況の中で増殖する「他者への憎しみ」の根っこは以前からあちこちにあった、と指摘する。

 「国連のグテーレス事務総長は、新型コロナウイルス感染拡大のさなかにある世界で、津波のように憎しみが生まれていると述べ、批判した。確かに、ヘイト・クライムや外国人排斥の動きが世界のあちこちで急増しているのは事実だ。しかし、その多くは新型コロナウイルスの感染が拡大する前から存在していたものであり、分断の種は、遠い昔にすでに植えられていた」

パンデミックを好機に

 その上で社説は、「人々がスケープゴートを求めている時にこそ、人種差別やパラノイアが増幅される」として、今世界でどんな「分断」が引き起こされているか例示する。

 「特に、中国人やアジア系の人々が言葉のハラスメントや暴力のターゲットになっている。例えば米国では、ミャンマー出身の男性と彼の幼い子どもが、新型コロナウイルスの感染者だと思い込んだ若者によって刺された。オーストラリアでは、女性がアジア系の姉妹を蹴飛ばし、つばを吐きかける姿がビデオに撮られていた。イタリアでは、人種差別的な落書きがあちこちに出現し、カメラを持った男が、“汚い、おぞましい”と言いながら年老いたアジア系の男女を追いかけ回していた。一方、中国では、アフリカからの移民がウイルスを持ち込んだと差別された。インドでは、イスラム教徒が繰り返し差別の対象となっており、攻撃されたり、尊厳を傷つけられたり、家や村に入ることを拒まれたりしている」

 社説が指摘するのは、発展した最新の通信技術が不適切に用いられている点だ。誤った情報は急速に拡散され、いつの間にか「大きな声」となって少数派を追い込み、暴力のターゲットにしてしまう。グテーレス事務総長は、移民への偏見や宗教に基づく差別に加え、「ジャーナリストや内部告発者、医療従事者、援助スタッフ、人権擁護の活動家らは、自身の仕事をしているというだけで標的になっている」とスピーチしたが、社説もそれを引用し、懸念を示している。

 最後に社説はこう呼びかける。「感染者に烙印を押しても、彼らの孤立感を増幅させるだけだ。今日のような絶望的な時期にもっと良い判断ができないのは、情けない。われわれは、感染拡大にさらされている今こそ、人間性を分かち合い、共に立ち向かうべく一致団結しなければならない。さもなければ、世界は分断され薄情なままだろう」

 いまだ感染封じ込めの希望が見えないパキスタンだが、こうした社説が一人でも多くの読者の心に届くことを期待しよう。

(原文:https://www.dawn.com/news/1556215/a-divided-world)

 

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