台湾総統に頼氏 緊迫する中台関係を読む東南アジア紙
「安定」を願う近隣諸国は台湾情勢をどう報じたか

  • 2024/2/20

 台湾総統選が2024年1月13日に行われ、与党・民進党の頼清徳副総統が、最大野党・国民党の侯友宜・新北市長、台湾民衆党の柯文哲・前台北市長を破って初当選した。頼氏は中国の圧力に対抗して中台関係を現状維持とする姿勢を示しており、中国の反発が予想されている。

 台湾の中央選挙管理委員会によると、投票率は71.86%。得票率は、頼氏が約40%、侯氏は33%、柯氏は26%だった。一方、同日に行われた国会議員にあたる立法委員選(定数113)では、頼氏の与党・民進党は51議席獲得で第二党に。野党の国民党が52議席を獲得して第一党となり、「ねじれ」が生じる結果となった。

台北で支持者とともに総統選の勝利を祝う、頼清徳・現副総統(中央)と、蕭美琴・現副総統候補(右)。次期総統は、前政権路線を引き継ぐことを約束している。次期政権が、人口2,300万人の台湾だけでなく、台湾が半導体を供給している中国や米国をはじめ、世界を動かす先進的な国々との関係に何をもたらすかが注目されている(2024年1月13日)(c) AP/アフロ

警告に屈しなかった台湾に中国はどう出るか

 台湾の総統選を、東南アジア諸国はどのように見ているのだろうか。シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、2024年1月17日付で「台湾総統選後の重要なステップ」と題した社説を掲載した。

 社説は、「民進党は、中国の警告を無視して頼氏を当選させ、史上初の3期目の政権を獲得した」と書き出す。だが、その勝利は必ずしも圧勝ではなかったとしたうえで、「民進党への反感と、中国当局からの警告の影響もあり、頼氏の得票率は、前任の蔡英文氏が2020年に勝利した際の得票率よりも17ポイント低かった。また、民進党は議会でも過半数を失った」と指摘した。

 また同紙は、中国側の反応について、「昨年11月に行われた習近平国家主席とバイデン米大統領の首脳会談の成果を台無しにしないよう、台湾に対する懲罰的な行動はとらないのではないか」との見方を示す。また、頼氏がここ数年、「台湾独立の立場を緩やかにしてきた」として、中国にとっては「先手を打って(台湾に)不愉快な思いをさせるよりは、頼氏が今後、5月に総統に就任した後にどのように動くかを見守る方が得策だと考えているのではないか」と、二者の関係を読み解く。

 さらに、シンガポールが「両者の対話と協力を呼び掛けてきた」立場であることを強調し、「頼氏は、台湾海峡の現状維持に全力を尽くすと述べている。その約束を守らなくてはならない」と主張した。

大国からの独立 似たような火種を抱えるインドネシア

 東南アジアの大国であるインドネシアでは、英字紙ジャカルタポストが、2024年1月16日付の社説で台湾総統選を論じた。

 社説は冒頭で「台湾の人々にとって自由は非常に価値の高いものだ。彼らは中国大陸からの軍事的示威を含む執拗な警告や脅迫を、勇敢にはねのけた」と指摘したうえで、今回の選挙結果を「勇気ある抵抗」だと評した。

 さらに社説は、これまでの中国の姿勢について、「習首席は軍事力とソフトパワーの両方を駆使して台湾の人々の心をつかもうとしている。中国は、『一国二制度』の下で台湾は常に自由で、高度な自治権をもつと繰り返し断言してきた」と説明する。しかし、「台湾の人々は、その制度が実際はどのようなものか、香港の経験から学んでいる」として、台湾の人々は一国二制度を容易に信じないだろう、と指摘した。

 そのうえで、「台湾の選挙で発信された自由を求めるメッセージは、中国だけでなく、インドネシアでも発される可能性がある」と踏み込む。具体的には、インドネシア東端のパプア地方で起きている分離独立運動のことを指している。パプアは、1963年にインドネシア領となった後、2002年以降は自治権をもつ州となった。しかし、国連はパプアをインドネシアの一部と認めており、分離独立を求める勢力とインドネシア政府との衝突が続いている。

 社説は、パプアの事情と今回の結果について「類似点がある」と指摘するだけで、それ以上は論じていない。しかし、その行間には、「独立をめぐる問題が決して他人事ではない」という思いが滲んでいる。

 

(原文)

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/crucial-next-steps-after-taiwan-polls

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/01/16/taiwans-vote-of-defiance.html

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