ウクライナ侵攻で一変したドイツ社会
押し寄せる避難民への対応と厳格化する対ロシア政策を読む

  • 2022/3/14

さまざまな思いを抱えるロシア系住民

 ロシア人の父とウクライナ人の母を持つ前出の男性のように、ドイツにはロシア系住民も多い。ドイツでは、かつて旧ソ連や東欧地域に移住したドイツ系住民の子孫の国籍回復が許されており、1990年代には200万人近くがドイツに流入したためだ。

 また、旧共産圏の東ドイツ下の人々がロシア語を学んでいたという歴史もある。プーチン大統領自身、かつて諜報員としてドレスデンに滞在していた事実が示すように、ドイツとソ連の間の人的交流が盛んに行われていた。旧東側諸国の人々が好んでドイツに住んでいるのも、そうした経緯があるためだ。

 今回の侵攻に対する見方は、そうした人々によってさまざまだ。

 確かなことは分からないが、2019年のドイツ政府統計によれば、ドイツ国内にロシア語話者は約350万人いるとされる。人口約8000万人のドイツ社会において、その存在感は大きいと言える。彼らのルーツは必ずしもロシアというわけではなく、ウクライナやグルジアなど、旧ソ連の国の出身者であることも多い。

かつて東西ベルリンを分けた境界線のチェックポイントに掲げられた平和への祈り (c) Yuko Naito

 つまり、ドイツにいるロシア語話者にはさまざまな立場があり、ロシアにルーツのある人だけ見ても、考え方は一様ではない。ロシアの国営メディア「RT」も、今回の制裁によって排除されるまではドイツで放送されていた。そのため、比較的年齢の高いロシア系住民は、ロシア本国のメディアを日常的に視聴し、プーチンのプロパガンダに染まっている人が多いと言われる。

 他方、ドイツで教育を受けたロシア系の若者や、自らの意思によって、近年、ロシアを離れた者の中には、プーチンに賛同しない人も多い。ドイツで育ったあるロシア系の若者は、「親はプーチンを支持しているが、自分は反対だ」と話しており、世代間格差も大きいことがうかがえる。

 なお、西ヨーロッパ最大級のロシア語の週刊誌『ルスカヤ・ギャーマニア』の編集者、グリゴーリイ・アロセフ氏は、南ドイツ新聞に寄稿し、「ロシア語圏のコミュニティの中では、ウクライナへの攻撃をはっきり非難する声が圧倒的に多い」と述べている。

 ロシアマネーと原油・天然ガス欲しさに、西側諸国はプーチンの暴走に目をつぶり続けてきた。この資源の供給を断たなければ、ロシアの政権に財源を提供し続けることになるが、エネルギー不足、資源価格のさらなる高騰につながるため、決断はまだできていない。

 ロシアへの依存度をいかになくすことができるか、西側諸国の責務は大きい。

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