ASEANが直面するミャンマーの人権問題
危機を解決できない構造に危機感募らせる域内の英字紙

  • 2022/3/9

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は2月16日と17日の2日間にわたり、カンボジアの首都プノンペンで外相会議を開いた。議論の中心の一つは、昨年2月に国軍がクーデターにより実権を握ったミャンマー問題だった。ASEANはミャンマー国軍との間で昨年4月、暴力の停止などを含む「5項目の合意」を交わしたが、関係者すべてとの対話も含め、実質的な進展はない状態だ。また、今回の外相会議では、ミャンマー国軍の任命する高官の参加に一部加盟国が難色を示し、ミャンマー代表は不在のまま開かれた。

 こうした状況の中、ASEAN外相会議はミャンマー問題について、「国軍に対し、ASEANとの5項目の合意を完全に履行するよう求める」との声明を発表。また、3月20日より議長国カンボジアのプラク・ソコン副首相兼外相を特使としてミャンマーに派遣する予定だ。

(c) Thiha Soe / Pexels

外相たちの解決能力を疑問視するマレーシア

 マレーシアの英字メディア「ニュー・ストレイツ・タイムズ」は、2月17日の社説で、ASEANがミャンマー問題に解決をもたらすことは「ほぼ見込みのない望みだ」と厳しく指摘し、次のように述べる。

 「ミャンマーの人々も、国際社会も、ASEANの外相たちがミャンマーに民主主義を取り戻す手段を講じてくれることを願っている。その第一歩は、まず暴力を停止することだ。しかしそれは、私たちの考えが間違っているといいのだが、残念ながら見込みのない望みだ」

https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2022/02/772095/nst-leader-asean-and-myanmar

 この理由として、同紙は、ミャンマー国軍が実権を握ってから、ASEANの呼びかけに国軍が応じておらず、民主化を求める人々への弾圧が今もやんでいないことを挙げた上で、「ASEANという組織が、危機を解決するためのつくりになっていない」と、指摘した。これまでASEANは「全会一致」「内政不干渉」を一貫して掲げてきたが、欧米諸国から見れば、これは「本質的に臆病」なのだという。

 その上で同紙は、「今なお機能不全の状態が続いている中、ASEANは、たった一つ正しいことをした。ミャンマー軍を率いるミンアウンフライン総司令官を会議に招いていないことだ。カンボジア政府の反発を押し切って参加させなかったことをミャンマーの人々が知れば、ASEANが国軍を認めず、受け入れも拒否していると喜ぶだろう」と、指摘する。

 しかし同紙は、ASEANの外相たちが、「ただちに足並みをそろえて行動し、民主化勢力をミャンマー国民の真の代表として認めない限り進展はない」と、指摘する。

 さらに同紙は、ミャンマー国軍が中国、ロシア、インドといった国々と近しいことを挙げ、その中でASEANは何ができるのか考えなければならない、と問いかけている。

タイは議長国カンボジアの役割に言及

 ミャンマーと隣接するタイの英字紙「バンコクポスト」も、2月13日の社説でASEANに対して「強い声を上げること」を訴えた。

 (https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2263383/myanmar-poses-asean-quandary

 同紙は、ASEANの外交を「静かな外交」と名付け、「欧米から時に批判を受けながらも」、当事者を巻き込むことによって成果を上げることもあるため、ASEAN特使のミャンマー訪問も現実化してきた、と述べる。しかし、それはかなり遅すぎる成果だ。同紙は、「ASEANが静かな外交スタイルを原則としているにせよ、時には声を上げることが必要だということを忘れてはならない。ミャンマーではすでに1400人以上の命が奪われている」と、主張する。

 民主化を求める市民の抗議行動への弾圧に加え、ミャンマー国内では少数民族の地域に対する空爆や攻撃が行われている。そうした地域と国境を接するタイにとっては、直接的な被害に加え、多数の避難民を受け入れざるを得ない状況が発生している。

 同紙は、議長国カンボジアのフン・セン首相がミャンマー問題の解決に積極的な姿勢を示していることについて、「カンボジア国内の人権問題を顧みれば、フン・セン首相がミャンマー問題解決にふさわしい人物かどうかは疑問だ」としながらも、「国軍との対話を続けているという面では、一定の役割を果たしている」との見方を示している。

 排除と対話。ミャンマー情勢をめぐるASEAN加盟国の立場は、地政学的にも、歴史的にも複雑で、一枚岩ではないことを、われわれはこの間、嫌と言うほど目の当たりにしてきた。「民主主義」という価値観を最優先で掲げることができる国が、加盟国の中でどれだけあるのか、という点すら、単純には言えない状況であり、地域の共同体としての存在意義自体、問われていると言っても過言ではない。そうこうしている間にも、ミャンマー国内で、そして国外の関係者も含め、民主主義を奪われた人々の苦悩は続いている。

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