JR東日本がアジアの鉄道人財の育成を開始
ミャンマー国鉄の駅員が上野駅にやって来た

  • 2020/2/5

受け入れ側にも新たな気付き

 前出の通り、長らく国内輸送を営業基盤に持ち、国内で完結してきた日本の鉄道業界で、海外へ打って出る動きが広がっている。さらに、この夏に開かれるオリンピック・パラリンピック大会や、インバウンド観光客の拡大政策によって、日本を訪れる外国人旅行者数も急増が見込まれ、環境の一層の変化は必至だ。駅スタッフがサービスを提供すべき相手の多様化も、避けられない。

訪日外国人の増加に伴い、日本の駅スタッフも今後は多様な利用客にサービスを提供することになる(筆者撮影)

 これを見据え、訪日外国人に日本の鉄道サービスの高さを知ってもらうための取り組みも生まれている。例えば、相模鉄道は2019年、相鉄グループと連携し「インバウンドツアー 相模鉄道職業体験会」を実施した。「鉄道員(ぽっぽや)の業務」を体験してもらうことで、その第一弾として行われたのが、「駅係員体験会」だった。「安全・正確・快適」な日本の鉄道がどのように運営されているのか知ってもらうことが狙いだったというが、同時に、こうした交流が駅スタッフにとって訪日外国人と接する貴重な経験となったのは、言うまでもない。

 今回のJR東日本の研修でも、チョーさんとモォンさんは上野駅で一方的に「教えられる」存在でいたわけではなかったようだ。実際、東尾さんは、キャリーケースが手から離れてエスカレーターから落下する事故が相次いでいる事例を紹介した際、2人から「踏板を2倍に広げれば防げるのでは」と問われ、驚いたという。「これまでそんな風に考えたことはなかった。当たり前だと見過ごしていたことを思いがけない視点から指摘され、新鮮だった」と、東尾さん。隣でうなずきながら聞いていた植松さんも、「確かに意表を突かれて驚いたり困ったりすることもあったが、その都度、なぜそう思うのか尋ね、最終的には理解し合えるように心がけた」と、振り返る。

 また、以前、同社の海外展開プログラムに参加するなど、海外事業への関心が高かったという植松さんは、「わが社が海外でインフラ展開事業も進めているのは聞いていたが、今回、人材育成を通じて世界とつながり、国際貢献ができることを知った」「将来の選択肢が増えた」と、顔を輝かせる。

駅内報告会などの場を通じ、2人の学びや気付きが上野駅のスタッフたちに繰り返し共有された(JR東日本提供)

 そんな2人を頼もしそうに見つめる上司の新井山幸宏さん。「チョーさんとモォンさんに充実した時間を送ってもらいたい一方、専任のスタッフを割く人的余裕はなく、1週間ずつ各セクションの通常業務を経験してもらった」「受け入れ側にも気付きが生まれたのは、狙い通り」とほほ笑むと、真顔になってこう続けた。「われわれが外国籍の人と一緒に駅に立つ日は、すぐそこまで来ている。言葉の壁があると言っていられない」

中央改札を背に笑顔を見せる2人(筆者撮影)

 同社は、今年も同様の形で研修員の受け入れを実施する予定で、人数と分野を拡充することにしているという。変革待ったなしの日本の鉄道業界。海外に売って出るだけでなく、アジアの人財とともに、学び、成長していくための種まきは、始まったばかりだ。

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