ケニアの女性が巻き込まれた相続トラブル
伝統的な慣習によって妨げられる権利を守るには

  • 2021/8/4

実効力を伴わない法律

 そもそも法律は、当事者間で守られない限り存在する意味がない上、法を破った場合の罰則が付随していなければ強制力を持たない。例えば、物を盗むことを禁じる法律があっても、警察官や裁判官が機能していない社会では法を守る意味が伴わないため、盗むことを止めさせる利益がないだろう。今回紹介したネリーさんと夫の実家の間で起きたトラブルの場合、夫の親族の要求がケニアの法律に違反していることは明らかだが、ネリーさんが弁護士を雇って裁判を開かない限り、実質的に罰則を与えることはできない。ケニア人女性の中で、弁護士を雇って適切な法手続きを行うことができるだけの知識と財力を備えた存在は、ごく一部だと言わざるを得ない。
 また、いかに義理の家族の行いが法に触れていると言っても、慣習の中では女性に土地を与えなければいけないという根拠自体が存在しないため、「嫁が所有している土地を奪う」という行為すら正当化されていることにも注意しなければならない。実効力のない法律と、生活の中で大きな力を持つ慣習。この二つのパワーバランスを考慮すれば、人々は後者に従うというのが、ケニア社会の現実だ。

ケニアのスラムの子ども © Gabriele Stravinskaite/ Unsplash

 もっとも、女性の人権を無視した慣習が横行することが良しとされているわけではない。ムワンギ氏が説明するように、ケニアでも女性を保護する法律は既にあり、今後、司法の改革や人々の意識の変化によって、こうした法律が実態のあるルールとして定着していく可能性はある。とはいえ、それまでの間、女性が公平さと自らの権利を求めて声を上げ続けなければならないことに変わりはない。法律が慣習を塗り替えるまでの間、女性の権利を守る戦いは続く。

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