スラムの映画館「ヴィダ」に集う人々
ケニアの低所得者層に憩いと居場所を提供する空間

  • 2019/12/1

兄の映画館を引き継いで

 人は誰しも、何かしら娯楽を楽しんでいる。ケニアで代表的な娯楽と言えば、男性なら週末にプレミアリーグ(英国のサッカーリーグ)の試合で贔屓(ひいき)のサッカーチームを応援したり、バーに繰り出して友人と酒を飲み交わしたりすることだろう。女性もサロン(美容店)に行って新しいエクステンション(付け髪)を試したり、ネイルアートで気分を盛り上げたりするのが人気だ。同じことはスラムの住民についても言える。彼らには彼らの娯楽があり、楽しんでいるのだ。

 「ヴィダ」(Vida)は、マザレスラムのスラングで、「スラムの映画館」という意味を持つ。映画館と言っても、小屋の中にテレビを置いた簡素なもので、(多くの場合、海賊版などの違法な)映画やプレミアリーグの試合を上映し、少年から大人まで男たちの憩いの場となっている。過酷な暮らしの中で気の置けない仲間とたわいなく娯楽に興じることができる貴重な場でもある。

ポール・ンガランバは、兄から映画館を引き継ぎ、経営を続けている(筆者撮影)

 今年で33歳になるポール・ンガランバは二児の父親であり、ヴィダを切り盛りして4年になる。彼の兄が強盗に巻き込まれた際、警官が発砲した流れ弾で怪我をしたのを機に、兄からこの映画館を譲り受けたという。今は兄の子どもも養いながらこの商売を続けている。

 「うちでは、平日は10シリング(約11円)払えば映画一本見ることができるよ。日に7~8本は上映しているかな。一本上映するごとに料金を受け取り、続けて映画を見たい客は館内に残るというシステムさ。週末はプレミアリーグの試合もあるから入場料を30シリング取るけれど、この小屋一杯に客が来るよ。絶好の稼ぎ時さ」

 「スラムでは、ヴィダはさまざまな面で重要なんだ。暇を持て余したヤツが来ることが多いけど、外の世界でドラッグや犯罪に巻き込まれるのに疲れてしまったヤツが、ホッとリラックスできる場所がヴィダなのさ。お客にはここでストレスを発散してもらって、気持ちを軽くしていってほしいね」

 ポールによれば、平日は一日600~700シリング、週末には1,500シリングほどの稼ぎになるという。治安が悪く、貧しいことで有名なマザレスラムの中であることを考えれば、かなり良いビジネスだろう。

ヴィダは、男たちがリラックスして過ごせる憩いの場だ(筆者撮影)

 そんなポールが経営するヴィダの常連客の一人が、マザレ生まれマザレ育ちのブライアン・オティエノだ。特に、チェルシー(プレミアリーグのクラブチームの一つ)の試合がある日は、欠かさずヴィダにやってきては観戦している。

 「僕はまだ19歳だけど、ヴィダがスラムに良い影響を与えていると思っているよ。ここは単なる娯楽の場ではなくて、映画を見ながら外の世界のことを知り、心を成長させる場所でもあるんだ。スラムの中で暮らしていると、毎日トラブルばかり起こるから、その日がどんな日だったかに関わらずリラックスして過ごせる憩いの場がここには必要なんだ」

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