世界遺産の街が直面する現実
ラオスに見るオーバーツーリズムのジレンマ

  • 2020/2/26

世界の人々を引き付ける魅力

 古い仏教寺院とフランス植民地時代の建物が独特の雰囲気をたたえ、悠久のメコン川が流れるルアンプラバンの魅力は多岐にわたる。

 毎朝開かれる朝市には、ナマズや雷魚などの川魚や野菜のほか、ニワトリやアヒルが生きたまま並び、川海苔や、トワナオと呼ばれる納豆を乾燥たような調味料がナイロンの袋に入って売られている。夕方から始まるナイトバザールでは、カラフルなテントの下にラオスの伝統織物や少数民族のカラフルな刺繍、パッチワークなどの手工芸品が並び、観光客で賑わう。

朝市で売られる川魚(筆者撮影)

 そんな街並みと、穏やかで親切な人々の暮らしに根差した文化が評価を得て、ルアンプラバンは1995年、ユネスコの世界遺産に指定された。以来、この街を訪れる観光客数はうなぎ上りに増え、米国や英国の旅行雑誌の「一番訪問したい都市」ランキンで毎年のように上位入りするようになった。タイや韓国、中国、日本などアジアからの観光客も多い。

街の中心部で開かれるナイトバーザールには、少数民族の織物や手工芸品が並ぶ(筆者撮影)

 最近では、周囲の雰囲気を壊さないように伝統的な家屋を改造したお洒落なカフェやレストランも中心部に増え、レンタサイクルで回れるようになった。インターネット環境も申し分なく、高級ホテルからゲストハウスまで懐事情に合わせて滞在先を選べる。

日帰りツアーを誘う旅行会社やレストランの看板が並ぶ(筆者撮影)

 ハーブが多く使用された素朴でヘルシーなラオス料理も好評だ。特に、ルアンプラバンの街の名前がついたパパイヤサラダやソーセージ料理は人気が高い。独特の香りと風味が特徴のラオスコーヒーや、旧フランス領時代から受け継ぐフランスパンも絶品だが、メコン川のほとりで夕陽を眺めながら飲む地ビール「ビアラオ」の味は格別である。

 メコン川のようにゆったり流れる癒やしの時間こそが、この街の最大の魅力なのかもしれない。国の花、チャンパー(プルメリア)の白い花やブーゲンビリアの紫色が、歴史と文化の街を彩る。冬には氷点下まで気温が下がる欧米や東アジアの人々にとって、常夏のこの国の気候と太陽は、何よりの魅力だ。

ルアンパバーン市内を流れるメコン川に沈む夕日(筆者撮影)

進む空洞化と環境汚染

 そんなルアンプラバンが、危機に直面している。本来は、世界遺産に指定された伝統的な街並みを保存すべく建物の修復や建替えが厳しく制限されているにも関わらず、近年、中心部にさまざまな建物が乱立し始めているのだ。ベトナムや中国などの資本家が伝統的な家屋を買い取るケースも目立ち、長年住んでいた家を売り、郊外に移る住民も後を絶たない。

 増え続ける観光客によって、ゴミや排気ガスの問題も深刻化している。特に、中国の春節の時期には、陸続きの雲南省昆明との間で運行している国際バスや自家用車に乗って、雲南省をはじめ、湖北省、湖南省、四川省などから大量の中国人観光客が押し寄せ、ルアンプラバンの街は喧噪に包まれるという。

中国の支援で進む鉄道建設の現場(筆者撮影)

 

 しかも、これほど観光客が増えているにも関わらず、経済成長につながっているのは一部の地区に限られ、地元は期待されていたほど潤っていないようだ。乗り合わせたトゥクトゥクの運転手が、「観光客は増えたが、地元にはゴミと騒音と事故しか増えない」と嘆いた。その言葉にこそ、今のルアンプラバンの問題点が集約されているように感じる。

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