南アジアのPM2.5濃度、WHO基準値の16倍の国も
「世界大気質報告書」の警告に、取り組みを急ぐアジア諸国

  • 2024/5/5

 空気の質を改善する事業などに取り組むスイスの企業、IQエアが毎年発表している「世界大気質報告書」の2023年度版がこのほど発表された。「世界で最も汚染された国」として1位になったのは、バングラデシュだ。2位はパキスタン、3位はインドとなっており、ワーストスリーはここ5年ほど、南アジアの国々で固定されている。

 IQエアのランキングは、世界134カ国、7812都市で、年間平均のPM2.5の濃度(μg/m³)を調べてまとめたもの。2023年版の報告書によると、世界全体の死亡数において、9人に1人は大気汚染が原因と推定される。世界保健機関(WHO)はPM2.5の年間ガイドライン値を5μg/m³と設定しているが、「最も汚染された国」とされたバングラデシュは、約16倍の79.9μg/m³。2位のパキスタンも73.7μg/m³と高値であり、3位のインドも54.4μg/m³と、ガイドラインをはるかに上回る。同報告書によると、ガイドライン値の5μg/m³を達成している都市は、わずか9%だという。

Ion Ceban @ionelceban / Pexels

パキスタン、驚異的な大気汚染レベルに愕然

 この結果を受けて、パキスタンの英字紙ドーンは3月25日、「スモッグ・カントリー」と題した社説を掲載した。

 社説は報告書で示されたパキスタンのPM2.5濃度が、WHOのガイドラインの14倍に上ることについて、「この驚異的な数値の重大性を理解することが重要だ」としている。なぜなら、PM2.5はひとたび人体に取り込まれると、肺の奥深くまで入りこみ、血流に乗って、呼吸器感染症、心臓病、脳卒中などの深刻な健康被害を引き起こすからだ。社説はさらに、子どもの認知発達にも影響を与えるとも指摘した。また、大気中の有害な汚染物質が、パキスタンの人々の寿命を4.4年縮めている、という別のデータに基づく推定もあるという。

 「(報告書において調査された)パキスタンの全都市において、PM2.5濃度は、最も低い都市でもWHOガイドラインの6倍にのぼった。この事実は、パキスタンの大気の質に対する厳しい警告であり、すぐに介入が必要だ」と、社説は言う。そして、その方法として、「環境に関する規則を早急に見直し、自然エネルギーに積極的に投資を行い、公共交通機関の利用を促進しなければならない。また、規制だけでなく、大気の質を監視・管理する能力を強化することが急務だ」と述べる。

チェンマイを災害地域に指定?柔軟なアイデアで大気汚染の解決を

 報告書のランキングでは36位だったタイでも、大気汚染は深刻な問題になっている。3月19日付の英字紙バンコクポストは、「PM2.5問題に必要なひらめき」と題した社説を掲載した。

 社説は、タイ北部の観光都市チェンマイの大気汚染について、野党の議員が「災害地域に指定し、大気汚染対策を集中して行うべきだ」とセタ政権に求めたことをきっかけとして、政府の大気汚染対策について論じている。この議員の呼びかけはあまり多くの支持を得なかったとされるが、社説は「それではどんな解決策があるのか」と問いかける。

 チェンマイにおける大気汚染の主な原因は、森林火災や焼き畑だ。これはタイ国内だけの対策で解決できるものではなく、近隣諸国の協力が必要になる。社説は、現政権の取り組みについて、隣国のカンボジアやラオス、ミャンマーに森林火災対策を求めるなどの対策をしているが、効果的ではない、と指摘する。一方で、新たな対策として、焼き畑農法を用いずに生産された農産品に経済的なインセンティブを設けることを提案した。「これは夢物語ではない。実際に、シンガポール、マレーシア、インドネシアでは20年近く前からこの対策が試みられている」として、実効性のある対策の必要性を訴えている。

 

(原文)

タイ:

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2761034/pm2-5-needs-a-bright-spark

パキスタン:

https://www.dawn.com/news/1823657/smog-country

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