アジア各地で医療者不足が深刻化 手当求めストライキも
医療システムの崩壊を物語る人材不足の現状

  • 2024/7/4

 毎年5月12日は、国際看護の日に定められている。看護師の社会への貢献をたたえる目的で設けられたこの日に合わせ、各国でイベントが開催され祝われる一方、世界には医療人材不足や国外への人材流出、そして医療システム崩壊の危機に瀕する国々も多い。

(c) SJ Objio / Unsplash

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低賃金・重労働に喘ぐマレーシアの看護師

 マレーシアの英字紙ニューストレイツタイムズは、国際看護の日から2日後の5月14日、「看護師問題に取り組む」と題した社説を掲載した。

 社説によると、マレーシアの看護師不足は非常に深刻な状況だという。その背景にあるのは、「低賃金、不公平な業務配分、キャリア開発の機会の少なさ、そして福祉に関する一切を担うことの苦悩」があるという。

 マレーシアの保健大臣は、5月上旬の記者会見で「今後、2030年までに必要な看護師の60%が足りなくなる可能性がある」と述べた。社説はこの現状について、「ほんの10年前まで毎年1万人もの新しい看護師が誕生し、看護学部の卒業生があまるほどだった。だが、いくつかの私立大学で看護学部が閉鎖された結果、現在は年間わずか3000人ほどしか輩出されなくなった」と説明する。さらに、「マレーシアの看護師は、国内にとどまらず、フィリピンの看護師のように世界で働ける水準にある」とも指摘した。

 社説は、看護師不足を引き起こしている課題の一つとして低賃金を挙げ、「かれこれ12年も続いている」と指摘したうえで、「きたる12月に公務員給与が13%引き上げられるタイミングでこの現状が改善されるかもしれない」と期待をのぞかせる。それでも、看護師不足による業務量の増加によって彼らのライフワークバランスは著しく崩壊しつつあるうえ、キャリア開発の機会の不足がさらに離職率を上げているとして、この多重課題を解決することがいかに難しいか、強い危機感を滲ませている。

医師と同じ追加報酬を求めるスリランカの医療従事者は異常か

 スリランカでは、医療関係者の国外流出が加速して国内の人材不足が深刻化している。ロイターの報道によると、過去2年間で1700人ほどの医療従事者が国外に流出した。2021年に流出したのは200人程度であったことを考えると、急増ぶりは明らかだ。

 スリランカの英字紙デイリースターは5月10日付で、この問題を別の角度からとらえた社説を掲載した。

 社説によると、スリランカでは医療従事者たちが医師に支給されている追加報酬(DAT)をその他の医療従事者にも適用するように求めてストライキを実施しているという。これについて、社説は「24時間、オンコール体制で緊急事態に対応せねばならない医師と、シフト体制で勤務する他の医療従事者は状況が違う。また、受けている教育レベルも、研修の過酷さも同じではない」として、医師と同じ特権を要求するのは「不公平であり異常だ」と断じている。

 社説は、医療従事者たちを「理不尽な要求をしてストライキを行い、多くの患者たちに迷惑をかけている」と非難し、理解を示そうとしていない。だが、こうした医療従事者たちがどのような環境で仕事をしているのかについて、具体的な記述はない。どうも、批判の矛先は医療従事者たちを組織してストライキを実施した労働組合や急進政党に向けられているようだ。

 かつて、スリランカの医療システムは南アジア屈指の高水準を誇っていた。だが、2022年に同国が債務不履行に陥り、財政破綻した後は、200万人以上のスリランカ人が留学や仕事のために国を離れたと言われている。今回のストライキは、単なる医療者不足ではなく、医療システム自体の崩壊を物語っているのだろう。

 

(原文)

マレーシア:

https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2024/05/1050280/nst-leader-tackling-nursing-issues

スリランカ:

https://www.dailynews.lk/2024/05/10/editorial/531639/end-this-unhealthy-trend/

 

 

 

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