ネパールの安全で健康的なお産のために
地元紙「ハードとソフトの両アプローチを」
- 2021/3/18
出産はどんな国であっても命がけには変わりないが、途上国でのリスクは先進国とは比較にならないほど高い。ネパールの英字紙カトマンドゥポストは、2月25日付の社説でこの問題を採り上げた。
出産時死亡数は減少
社説によれば、ネパール政府は、出産時に死亡する母親を減らすために、助産師が常駐する無料の出産センターを全国に設置したという。センターへの交通費支給や、女性のヘルスワーカーによる回診など、医療が届きにくい地域でも安全で健康的なお産ができるように取り組んでいる。
「しかし、それでも多くの女性たちは自宅で出産をする」と、社説は指摘する。
ネパールの国勢調査と健康調査によると、人口10万人あたりの母親の出産時死亡数は、1996年の529人から、2016年には239人に大幅に減少した。
「ネパールは、2030年までにこの数値を75にまで減らすことを目指している。そのためには、もっと目標を明確にした取り組みや、国全体のプライマリーヘルスケアの質を高めるための予算配分が必要だ」と、社説は主張している。
さらに社説は、「私たちは自ら歩んできた経験から学ばなくてはならない」と指摘し、次のように訴える。
「新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちの保健医療システムがいかにもろく崩れるかが明らかになった。プライマリーヘルスケア・サービスを強化しなくては、出産時の母親の死亡数を減らし、国民の命を守るという目標を達成することはできない。そのためには、特に、出産センターまで徒歩で丸1日かかるような遠隔地でも、安全で健康な出産環境が確保されるように政府は取り組まなくてはならない」
迷信の排除も必要
ただ、自宅出産だけが問題ではないようだ。
社説によれば、「カルナリ郡では、ここ半年あまりの間に10人の女性が出産時に亡くなっている。うち3人は健康センターに向かう途中で、残り7人は出産センターで亡くなった。またこの郡では、昨年一年間で21人の女性が出産時に死亡。過去7年では123人がなくなっているという」。すなわち、自宅から医療施設への移動中、あるいは医療施設で亡くなっているケースが多いという事実が浮かび上がる。
なぜ、こうした事態が起きるのか。その理由として、社説は、多くの女性たちが、妊娠中、状態が悪化してからでないと医療施設に行かないことを指摘している。妊娠が分かるやいなや母子手帳を受け取り、お腹の子どもの成長とともに母親が必要なヘルスケアを受けられるという日本のようなシステムは、どこにでもあるわけではない。医療施設で妊娠時に検診を受けて出産することがプライマリーヘルスケアとして当たり前にならなければ、こうした「手遅れ」のケースが発生し続けるだろう。
「安全なお産を確保するためには、道路を整備して医療施設へのアクセスを確保するというハード面に加え、母親と家族、および地域全体でお産の危険性を理解するというソフト面のアプローチも必要であり、安全性を損ないかねない迷信や古い慣習は排除するという啓発活動が必要だ」
社説でも触れられている通り、新型コロナウイルスは、先進国も途上国も関係なくわれわれの医療保健システムを脅かすと同時に、国境を越えた医療保健態勢を強化する必要性を知らしめた。
「この機会に、国を越えた協力でプライマリーヘルスケアの質の底上げに取り組むことができれば、ネパールに限らず世界中の命をもっと救える」と、社説は訴えている。
(原文: https://kathmandupost.com/editorial/2021/02/25/ensure-safer-births)