【ミャンマー・クーデター現地ルポ】「スーチー母さんの安全を」
音鳴らし叫ぶヤンゴン市民

  • 2021/2/3

騒音で軍に抗議

 「アウンサンスーチー母さんの安全を願う」。

 2月1日にミャンマーで勃発した国軍のクーデターに対して、翌2日の夜8時、ヤンゴン市民が一斉に、調理器具を叩く音、自動車のクラクション、歌声など、考えられるすべての音が出る方法を活用して、抗議行動を始めた。ヤンゴンの夜空に30分以上にわたって、ガンガンと割れんばかりの音が鳴り響いた。ミャンマーの習慣では、大きな騒音を起こすことで悪魔を払うことができると考えられている。国軍を悪魔に見立て、追い払おうというメッセージだ。その中で、路上でボトルを叩いていた青年が発した叫び声が、冒頭で紹介した、拘束中のアウンサンスーチー国家顧問兼外相を案じる言葉だ。

2日夜、たらいと椅子で音を立ててクーデターに抗議する青年(筆者撮影)

 与党国民民主連盟(NLD)が圧勝した昨年11月の総選挙に不正があったとして、非常事態宣言を発し、国軍が政府の全権を掌握したことに対し、ヤンゴン市民の失望と反発は大きい。ある会社経営の女性は2日、「昨日はそのことばかり考えていて眠れなかった。食事ものどを通らない。夫も同じ状態のようだ」と話した。

 2015年、2020年の総選挙で、圧倒的な得票数でNLDを支持してきた国民は、民主化を進めることで国がよくなり、自分たちの将来が開けると思ってきた。「その夢がつぶされてしまった」と女性はうなだれた。タクシー運転手の男性は「突然のことでとても悲しい。ショックだ」とつぶやいた。

日常生活続ける市民たち

 2月2日までのところ、ヤンゴン市内に大きな混乱や、当局と市民の衝突の情報はない。ヤンゴン市役所などの重要拠点以外では、兵士の姿を街中で見かけることも少ない。

 ヤンゴン各地の市場では、いつも通りの営業を続ける行商人らの姿がみられる。ある食品店の主人は、「自分には何もできない」と手を挙げながら、顧客のオーダーをさばいていた。

 1日には、ミャンマー人にとって大切な主食の米を求める人たちで米店に行列ができたが、1日経つとその姿も下火になった。1日に休業した銀行が多かったため、手持ち現金を確保しようと急ぐ市民らによって、2日朝になっても銀行の支店には開業前から行列ができていた。

ほぼ通常通りの営業を続けるヤンゴンの市場(筆者撮影)

 1948年に英国から独立して民主国家として出発したミャンマーは、1962年や1988年など数度にわたるクーデターを経験している。また、1990年の総選挙の結果を軍事政権が無視し続けてきた経緯がある。2015年にも、学生らが主導した教育改革運動が当局によって鎮圧され、多数の逮捕者を出している。ヤンゴン市民の中には、こうした苦い経験を覚えており、「またか」という思いを抱いた人も少なくなかった。そうした市民らは、努めて平静を保つようにし、日常生活を守ろうとしているようだった。

 ただその一方で、今回のクーデターによって誕生した政権が、市民の大きな怒りの対象となっているのも確かだ。2日夜には、医療関係者らのストライキの動きも表面化している。今後抗議行動が大きくなるに従い、国軍側との対立が深刻化する可能性がある。そうした深刻な事態を予感しつつ、自分たちのできることとして広がったのが2日夜の、一斉に音を出すという抗議行動だったのだろう。自分たちの将来を自分たちのものにしようとする、精一杯の意思表示だったに違いない。

 

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