ネパール経済を支える移民労働者に支援を
地元英字紙が帰国者の雇用創出を政府に要求

  • 2021/1/30

 新型コロナの感染拡大で、世界各地の移民労働者が職を失い、苦境に陥っている。2021年1月20日付のカトマンドゥポストは、この問題を社説で採り上げた。

ネパール経済は海外出稼ぎ労働者の仕送りに依存している(c) Bimal Ranabhat (c)Pexels

仕送りに依存する国家経済

 ネパールは古くから隣国インドをはじめ、移民労働者を多く送り出している。今回の新型コロナの感染拡大によって、彼らは大きな影響を受けている。
 社説はこう説明する。
 「新型コロナのパンデミックは、私たちの生活を乱し続けている。移民労働者やその家族は、厳しい入国制限を課されるなど、世界各国の厳しい防疫措置によって、直接、大きな打撃を受けている。2020年3月にネパール政府が計画性と準備が不十分なまま国家レベルでロックダウンを実施した際は、多くの移民労働者がネパールに帰国することができず、現地外交団の適切な支援も得られないまま、自力で生き抜かねばならない状態に陥った」
 移民労働者たちがネパールの家族へ送る生活資金は年間80億ドル以上に上る。これは、ネパールのGDPの3分の1の規模に相当するという。「それにもかかわらず、国は移民労働者たちに十分な保障や保護を与えてこなかった」と、社説は指摘する。
 「移民労働者たちは長年にわたって仲介業者や行く先々の国で搾取されてきた。ときには、奴隷に近いような状態で働かされていたこともあるが、政府はそのことを重視しようとせず、支援もしなかった。コロナ禍が上京を悪化させた。一夜にして仕事を失った労働者たちは、安い賃金や、場合によっては無賃金で働かざるを得なくなり、なかには路上での生活を強いられるものもいた。数えきれないほどの悲惨な話が過去9カ月間に起きていたが、それらに焦点が当たることはなかった」

制度見直しの好機にせよ

 社説は「政府がいまだに移民労働者に対して無策だ」と憤り、次のように述べる。
 「政府は今、国外から移民労働者たちを帰国させているが、彼らのためにいかに雇用を創出するか、明確な方針が見えてこない上、実際のところ、彼らと家族がコロナ禍でどのような影響を受けたのかや、2021年の見通しについてはほとんど検討されていない。政府は慌てて国家経済の回復計画に着手しているが、先行きの見えない移民労働者たちの将来は無視されたままだ」「報道によれば、彼らは日常必要な食品を買うことにも苦労し、高利の借金に苦しんでいるという。彼らの苦境への対応が遅くなればなるほど、貧困に陥る人々は増え、国家経済の発展に向けた取り組みが台無しになりかねない。彼らの生活をできる限り保障するとともに、彼らのスキルを生かした雇用の創出が喫緊に必要だ」
 政府の無策を批判する一方で、社説はこの危機的状況は「好機」だと主張する。
 「政府は、技術と経験を習得して海外から戻ってきた労働者たちの力を活用する持続可能なプログラムを打ち立てる必要がある。今日のような危機的状況のもとで雇用を創出することは簡単ではないだろう。しかし、見方を変えれば、この機会にだからこそ政府はこれまで目をつぶってきた課題に取り組むことができる、とも言える。一歩間違えば国の発展を妨げかねない問題に否応なく取り組まざるを得ない状況になっているということだ」
 ネパールの社説では、移民労働者の問題がしばしばとりあげられる。それだけ国民の中に関係者が多く、関心の高い問題であると言えよう。例えば移民労働者大国とも言えるフィリピンの場合、労働者たちは「国の英雄」と呼ばれ、クリスマスシーズンに彼らが帰国する時には大統領自ら空港で彼らを出迎え、セレモニーが開かれる。しかし、ネパールに限らず多くの 国々では、残念ながら「海外へ移住した国民」への対応はあたたかいとは言えない。
 新型コロナは、改めて移民たちの存在を浮き彫りにした。これを機に、世界経済を支える移民たちの姿にスポットライトが当たることを願いたい。

(原文: https://kathmandupost.com/editorial/2021/01/20/relief-for-the-returnees)

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