ネパールで人口分布の偏りが顕著に
地元紙が若者の流出や地域差に無策な政府を批判
- 2022/2/14
人口は、その国の経済や社会、文化などに多大な影響を及ぼす。日本を含む多くの先進国では人口の減少傾向がみられるが、ネパールでも人口の伸び率が小さくなっているという。1月28日付けのネパールの英字紙カトマンドゥポストは社説でこの問題を採り上げた。
80年で最低の伸び率
2021年11月25日に発表された国勢調査の結果によると、ネパールの人口は2919万人。10年前と比べると10.18%の伸びだが、年平均では0.93%増にとどまる。社説によれば、その「年間伸び率」は、ここ80年の中で最も低いものとなった。
社説は、「人口が増加していることは事実だが、果たしてこれは前向きにとらえるべきか、それとも、これから先の災いの予兆なのだろうか。多くの先進国では、人口が減少すると経済力の低下がみられる。統計は、政府がこれから直面するであろう経済問題や労働力不足問題、住宅市場への影響を示している」と指摘した上で、政府がこの問題を深刻に受け止めていないのではないかと懸念する。
「政府が将来の労働力不足が与える経済への影響を認識しているかどうかは、きわめてあやしい。ネパールは若者を国内に留め置き、安定した意味のある環境を作ることに失敗しており、若者を外貨獲得と引き換えに海外へ就労させている」
さらに社説は、人々が国外に職を求めることは悪いことではない、と前置きした上で、「それに頼りきることは国にとって良いことではない」と指摘する。「発展している国は、国内に常に国を打ち立てる層が確保されている」からだ。適切な施策がないために、若者たちは高齢者や女性、子どもを置いて村を出ざるを得ない状況になっている、と社説はいう。
広がる都市と地方の格差
さらに社説は、この問題の背景には都心部と地方の格差の問題がある、と指摘した上で、「この格差をなくすために、政府はいったいこれまで何をしてきたのか」と問いかける。たとえば、人口の均衡化が期待される地方分権化すら進んでいない。
また、国勢調査に現れている人口分布の偏りの問題にも懸念を示す。ネパールの人口は、南部に広がる平野部のタライ地方で増加傾向にある一方、山岳部では減少傾向にあるが、この状況が続けば、政治的、経済的に影響が出ると見られる。例えば、人口減少によって山岳部選出の国会議員数が減れば、それだけ山岳地方の発展が遅れる恐れがあるし、人口が集中するタライ地方では、平野部が住宅地や製造業に利用されて農産物の生産量が減少するという。
「人口の増加率そのものより、人口格差を是正する政策を打てない方が、よほど危機的だ」
社説が指摘するように、すでに多くの国で人口の減少、あるいは人口の増加率の縮小が始まっており、将来を懸念する声が高まっている。ネパールの場合は、まだ人口は増えており、「労働力が足りない」と嘆く主な理由は「海外就労」である。国内の労働市場を育成すれば、まだ「人口ボーナス」の恩恵を受けることも可能だろう。だが、途上国、新興国といわれる国々にも少子高齢化が忍び寄っていることは確かだ。それを「災い」ととらえるのではなく、新たな視点でとらえ直し、「健全な縮小」としていくことも必要になってくるだろう。
(原文 https://kathmandupost.com/editorial/2022/01/27/demographic-imbalances)