長期化する物価上昇の教訓とは
国際情勢と切り離せない国内経済の行方を論じるアジアの社説を読む

  • 2022/12/28

 食料品をはじめ、生活必需品の物価上昇に世界中が苦しんでいる。原因はさまざまだが、その一つと指摘されるロシアによるウクライナ侵攻は、依然、解決に向かう気配を見せていない。とはいえ、長期にわたる物価上昇は12月で「ピークを迎えた」との見方も出ている。

(c) Annie Spratt /Unsplash

フィリピン「過去のインフレから学べ」

 フィリピンの英字紙デイリー・インクワイアラーは、12月7日付の社説で「過去のインフレから学べ」という記事を掲載した。

 社説によるとフィリピン政府は12月初め、主に食料の物価上昇を受けて11月のインフレ率が前年比8%上昇したことを発表した。「フィリピン国民にとって最も重要な年中行事であるクリスマスを前に食料価格が下落しないことは大きな負担になる」と、社説は指摘する。海外就労者の多いフィリピンでは、この季節、国外の家族が帰国して集うことも多い。

 社説は、「フィリピンでは、今年のクリスマスの食卓はいつもより8%、規模が小さくなるだろう」としたうえで、「とはいえ、良いニュースがないわけではない」と続け、フィリピン国立銀行の見方を紹介しながら次のように述べる。

 「今回の物価上昇は2022年4月に始まった。フィリピン国民は、その後、約9カ月にわたってなんとかしのいできたが、インフレ率はこの11月、もしくは12月にピークに達した。2023年の第1四半期には物価上昇が収まり、人々の購買意欲も戻ってくるだろう」

 フィリピンでは、2008年から2009年にかけて、全国的に深刻なコメ不足が発生した。その時は、2008年2月から2009年4月までの15カ月にわたって物価上昇が続いたというが、今回はそこまで長くは続かないだろう、と推測する。

 こうした見立てをした上で、社説はこれまでと今回のインフレの経験から学ぶべきことを3点挙げた。

 第一に、フィリピン経済がいやおうなく国際経済とつながっていることを政府は国民に認識させるべきだということ。実際、今回のインフレには、ロシアによるウクライナ侵攻など、国内政治だけでは問題が解決できない事象が深く関係している。

 第二に、このような国際情勢による悪影響は、国内でしっかり準備することによって最小限に抑えることができるということ。例えば、空港や港湾、道路などインフラを整備し、国内の輸送をより効率的にすることを通じて国内の物価を安定化することで、外的要因による影響を軽減するのだ。

 そして第三に、エネルギー源を多様化すること。「輸入エネルギーに依存することなく国内で代替エネルギーを確保できれば、次の危機の時には国民を守ることができるだろう」と、社説は述べ、「こうした対策は、次のインフレが始まってからではなく、今、手を打つことが重要だ」と、続けた。

バングラデシュ「市場価格の監視システムを」

 一方、バングラデシュの英字紙デイリースターは、12月5日付の社説で、国連食糧農業機関(FAO)の最近の報告書に言及した。その報告書では、「経済的なひっ迫や洪水、食料価格の高騰などによって、バングラデシュでは近年、食料安全保障が厳しくなり、国民が苦しんでいる」と指摘されているが、社説は「その内容は、特に驚くべきものではない」と述べている。

 社説は、「FAOの物価指標によれば、世界の食料価格の高騰は11月には頭打ち状態になっている」と指摘。「にも関わらず、輸入量の減少や、価格調整の努力不足によって、国民は食料品の高騰に今も苦しんでいる。政府は、ガス危機や洪水によって収穫が減少したことが原因だと言っているが、そもそも市場価格がつり上げられないよう監視するシステムがなぜいまだにないのか」と続ける。そのうえで、「物価上昇は外的要因だけが原因なのではなく、便乗値上げなど、人為的な価格操作も見過ごせない」として、改善を訴えた。

                 *

 コロナ禍や、ロシアによるウクライナ侵攻などの非常事態は、新たな社会課題をもたらすが、同時に、日常に埋もれていた恒常的な課題も次々にあぶりだす。フィリピン紙の社説が指摘するように、「次の危機が始まってからではなく、今すぐに取り組むこと」が大事なのだと考えさせられる。

 

(原文)

フィリピン:

Learning inflation’s lessons

 

バングラデシュ:

https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/food-crisis-again-the-spotlight-3187816

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