新型コロナウイルスによって浮き彫りにされたインドネシア政府への不信感
危機の先にある光に向かって国民が政府に求めるものは

  • 2020/5/4

新型コロナウイルスの感染者数が、東南アジアで最多となったインドネシア。4月末時点で1万人を超え、死者数は800人とされる。大規模な社会活動の制限や経済活動の停止に踏み切っているが、感染拡大は止まらない。4月28日のインドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは、近づく経済不況の影と、政府への信頼の揺らぎについて社説でとりあげている。

危機の向こうに光を見ているとの市場調査の結果もあるインドネシアの人々。政府に求めるのは明確な情報だ (c) pisauikan / Unsplash

遅い政府の対応

 社説は、「新型コロナウイルスの感染拡大によって、経済が停滞することは間違いない。もし、感染拡大を阻止する対策がうまく機能しなければ、その影響は予想より長期化するだろう」と、危機感を示す。

 インドネシアでは4月上旬、感染者の増加を受けて、厳しい社会的な活動制限、経済活動の停止に踏み切った。首都ジャカルタなどでは、当初「1カ月」とされていた制限期間をさらに1カ月延長し、5月下旬までとする措置がとられた。

 さらに4月24日からは、全国的な移動制限を開始した。イスラム教徒が9割を占める同国では、約1カ月におよぶ断食月があける5月下旬にイド・アル=フィトル(イード)の大祭を控えている。例年、多くの人が帰省するこの時期に必要な物流以外の移動を禁じ、公共交通機関の運行を減らすことによって、感染拡大を抑制しようという狙いだ。

 社説はこれらの措置について「対策が前進している」と、評価する。また、感染拡大抑止の課題となっている検査の精度を上げるためにPCR検査の対象者を増やす取り組みも、「国内の感染状況をより正確に把握できるようになり、有効な政策判断の助けとなる」と、歓迎する。

 社説は、しかし、政府の対応が遅すぎる、とも指摘する。また、政府の姿勢には揺らぎがあり、国民を不安にさせていると批判する。「今日のような深刻な危機に直面している時は、いくら対策に前進があっても、そのスピードが遅ければ十分とは言えない。人々が必要としているのは、常に前向きに行動し、確信に満ちた政府だ。国民が望んでいるのは、安心感だ。それは、社会と経済の健全な発展にとって前提条件だ。逆に、特に新型コロナウイルスへの対応をめぐって迷走するような政府は、人々や経済を絶望とは言わないまでも、混乱に陥れるだろう」

国民にどう伝えるのか

 さらに社説は、政府のあいまいな姿勢が続けば、国民が戸惑い、感染を阻止するための措置を正しく理解できず、協力が妨げられるだろう、と危惧する。「社会活動が制限されている中でも、タクシーアプリは使えるかと尋ねる人もいれば、移動が禁止されているのに、ジャカルタから脱出する、と言う人もいる。中には、飛行機に乗ればいいのでは、という人もいる」

 このような質問が出ることについて、「昨日までルールとされていたことが次の日には変わったり、官僚によって矛盾する発言をしたりするなど、公共政策が一貫性を欠いているためだ」と、社説は言う。

 実際、つい最近も、ジャカルタ首都圏が社会活動の制限を1カ月延長したり、教育省が今年いっぱい自宅学習が続く可能性を示唆したりするなか、国家災害局は、インドネシア国内で最も感染拡大が深刻なジャカルタでの感染が抑制方向にある、という情報を発信したという。

 もちろん、それ自体は明るいニュースだと言えるが、同時に、「それならば、なぜまだ活動制限が必要なのか」といった疑問を人々に抱かせることになるだろう。国民が生活や経済活動に著しい不安感を抱く今、「詳しい説明や裏付けデータなしにこうした情報を発信すれば、人々に誤った期待を抱かせ、誤った決断や行動につながることになる」と、社説は指摘する。

 「私たちが政府に求めるのは、明確な情報だ。政府が国民にそれをどう伝えるかはとても重要なポイントだ。政府の官僚や政治指導者たちは、事実に基づいて全体を見渡した情報を伝え、国民の希望と信頼が潰えないようにしなくてはならない」

 ここで社説は、ある市場調査の結果を紹介する。「インドネシア人は、総じて今回の危機について楽観的で、ひとたび危機から脱したら、普段以上に消費が増えると見込まれる」というものだ。その上で、こう続ける。「すなわち、インドネシア人は、このトンネルの向こうに光を見ている。国民がいつこの試練を乗り越えることができるかは、政府の対策にかかっている」

 新型コロナウイルスという共通の敵に立ち向かうとき、どんな国でも、どんな政府でも、国民から求められるものは同じなのだ、ということがよく分かる社説だ。

(原文:https://www.thejakartapost.com/academia/2020/04/28/we-can-see-the-light.html)

 

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