海外就労や留学で国を出る人々 送り出し政府が負う大きな責任
海外移住の夢と引き換えに直面する困難を乗り越えるために必要なことは

  • 2024/6/3

 アジアの途上国の多くは、労働や留学など「海外移民」の送り出し国となっている。なかでも多くの移民を送り出しているバングラデシュやネパールでは、移民労働者からの祖国への送金が、彼らの家族だけでなく、国の経済を支えるまでになっている。

アラブ首長国連邦のアブダビに出稼ぎにきたバングラデシュの移民労働者が、他の労働者らと共同生活を送るアパートの一室の様子。こうした建設現場では、一部屋に15人の男たちが住んでいるケースも珍しくなく、劣悪な環境での生活を強いられている(2014年4月13日撮影)(c) The New York Times/Redux/アフロ

語学学習の支援を訴えるバングラデシュ紙

 バングラデシュの英字紙デイリースターは、4月9日付の社説で「移民労働者のスキルを上げることが喫緊の課題だ」と指摘した。

 社説によると、バングラデシュでは2004年以降、9万1000人以上が出稼ぎ労働者として湾岸諸国へ渡っており、世界の労働力として貢献してきた。しかし、彼らの多くは受け入れ国の言語を習得できておらず、現地でのトラブルを乗り切る能力が不十分だという。社説は、「外国で活躍するために必要なスキルの習得にあたり、送り出し政府によるイニシアチブがないのは驚くべきことだ」と疑問を提起する。

 同紙によれば、移民労働者には出発前に3日間のオリエンテーションが義務付けられている。しかし、そのような短期間で外国語を習得できると期待するのは非現実的だ。また、労働雇用訓練局では日本語と韓国語のコースが提供されている一方、移民先として人気が高いアラビア語、マレー語などのコースは実施されておらず、英語教育も不十分だという。

 「なぜアラビア語の訓練がないのか」という問いに対し、政府は「湾岸諸国では語学力は必要ない」と回答したという。社説は「このような近視眼的な見解は、当局の海外移民が置かれている複雑な現実とニーズを認識しておらず、アプローチがいかに不十分かを示している」と嘆く。

 受け入れ国でコミュニケーションができなければ、不本意な労働条件や搾取に直面した時に反論できず、権利侵害を受ける可能性が高まる。また、より高度な技術を発揮する熟練労働者への道も閉ざされることになるだろう。社説は、「移民労働者をエンパワメントし、彼らの権利を保護するために、語学の学習支援が不可欠だ」と主張した。

ネパール紙は憧れの留学先で困窮生活に陥るリスクに警鐘

 ネパールの英字紙カトマンドゥポストは、4月12日付で「出発前に考えて」という社説を掲載した。この背後には、近年、ネパール人の間で留学先として人気が高まっているカナダで困窮するネパール人が増えていることへの危機感がある。

 社説によると、2022年にカナダへの就学許可証を取得したネパール人学生は6,200人だったが、翌2023年には、上半期のみで8,600人に達したという。しかし、カナダへ渡った学生たちが直面したのは、生活苦だった。高額な授業料に加え、物価は想定以上に高騰した一方、彼らにできる仕事はなく、しまいには食べ物すら買えない学生や、路上で生活する学生まで現れたという。

 社説は、こうした事態を引き起こした要因の一つとして、ネパール政府が国民を保護する努力を怠っていることを挙げる。社説は、政府が事前に提供する情報が十分ではないうえ、「留学希望者に同意書を発行しているだけ」にとどまり、留学生たちが学費を支払えるかどうかは考慮していない、と厳しく批判している。

                 *

 海外での就労も留学も、国内では叶えられないことを実現するための移住であることに変わりはない。しかし、それは、国内では直面しないであろう困難との闘いを意味する。その原因は、主に、渡航前の情報不足だ。インターネット技術が発達し、地球上のどこにいても情報を簡単に入手できる時代になってもなお、必要なところに必要な情報が行き届いていないのが現実だ。自らが欲する情報だけでなく、生存に必要な情報が確実に届くよう、私たちは改めて情報の在り方を見直さなければならない。

 

(原文)

バングラデシュ:

https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/bridge-the-linguistic-divide-labour-migration-3585556

ネパール:

https://kathmandupost.com/editorial/2024/04/12/think-before-you-leave

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